71話 誤解
「……」
「それで? 苺の感は当たってたかい?」
「はい。2475匹のモンスターがここに向かって来ています」
「2475匹……。そうか、そうすると……」
「この数を聞いても驚かないんですね」
「驚いて狼狽えるよりも早く対策を練らないとまずいでしょ?流石にこれはふざけていられそうにないから。それで苺、まだ戦えそうかい?」
「うん。勿論。むしろ足りないくらい。今日モンスターの殆んどお前、遥たちに盗られたから」
「じゃあ……作戦は苺のワントップ。僕がこの先の分かれ道を出来るだけ狭めるから、苺は思いっきり突っ込んで。取り零しがないように全力は当然として……一応武器をもう1回確認しておこうか」
「分かった」
宮平さんは苺から両斧を預かると、いつになく神妙な顔つきで、手に力を込めた。
顔色は余裕に見えるが、その手は異様に震えている。
確認と言っていたが、間違いなく両斧に何か仕掛けをしている。
「ふぅ……。これで強度は大丈夫。刃こぼれの心配もない。ただこの先の敵の数を考えると……もう少し大きい方がいいかな?」
「重さに問題はない。だから今の2倍はあってもいい」
「了解。じゃあ2倍であると『誤解』させるよ。ちょっと時間が掛かるかも知れないから、皆で雑談……それと万が一の場合に備えて遥君たちも準備は頼むよ」
「みや、心配性が過ぎる」
「備えあれば憂いなし。気づいていなくてもこういった、バックアップがあるという状況は心身をリラックスさせて最高のパフォーマンスに――」
「いいから、急いで。モンスター待ってくれない」
「はい。すみません」
会話を途中で切られた宮平さんは、寂しげな声を上げると、今度は何かを呟き始めた。
これが『誤解』させるってことなのか?
そういえばさっき道を狭めるとも言っていたが……。
「みんな、私のスキルは聞いた?」
「あ、ああ。『振動』だろ?」
「私のスキル勝手に話したから、私もみやのスキル話す」
「ちょっ、それは――」
「集中」
「はい」
2人の関係は、宮平さんが保護者で苺が子供という図式が当てはまると思っていたがどうやらこれは違ったらしい。
例えるなら財布の紐をぎゅっと結ぶタイプの奥さんと尻に敷かれる旦那さんの方がしっくりくる。
「続き。人は当然、モンスター、それと物にも魂がある。みやはその中でもモンスターと物の魂、巧みに騙……誤解させられる。だから床、壁、武器、こういうものの固さ、大きさ変えられる」
「そう……だから、あなたの、あなたたちのモンスターはずっと透明なのね?」
「ハチ。見た目の割に賢い。そう私たちのモンスターずっと誤解したまま。可哀想。だから自由に、いつも通り暮らさせてあげたいから、施設早く欲しい」
「優しいのね。でも……その契約も誤解させられてるんじゃないのかしら?」
「それは……ちょっとだけ」
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