67話 勝手
「あら。試す、ね。随分と上からなのね。ランク10の先輩は」
「先輩……その響き、いい!でも、強さに関係ない」
「武器は大きな両斧……。物騒なものを使うのね。それで、それ……一体どこから出したのかしら?」
「それは……まだ言えない。話はもういい。ちゃんと構えてないと、怪我するよ」
陽葵さんに対していきなり攻撃を仕掛けた苺だったが、陽葵さんは既に2人に警戒していたようで、驚く素振りも見せずに、その攻撃を避けて余裕の表情を浮かべた。
そんな挑発的とも言える陽葵さんの態度に、苺は怒るどころか、字面をそのまま受け取って嬉しそうにしてみせる。
18歳と言っていたが、見た目だけでなく心にもまだまだ幼さが目立つな。
「――避けて避けて避けて……。あの人、陽葵さんは苺の攻撃を受ける気も受け流す気もないみたいだね。その洞察力はなかなかだ」
「今度は止めないのですか?」
「いや、怪我されても困るから止めたいけど、もうギャラリーも当事者2人も楽しそうにしているからね。ここで僕が割って入ったら非難轟々。炎上もあり得るかも……」
「それは、怖いですね」
「……。怖いって顔してないけどね。君。それよりあの2人どっちが勝つと思う? 」
「速さも技量も明らかに陽葵さんが上です。このまま同じ状況が続けば、疲れた隙に一撃が入ると思いますが」
「そうだね。でも、苺は感がいい。それにあの腕力は……普通じゃない――」
「くっ!」
「あれ? ちょっとかすっただけなのに……。その腕脆すぎる」
攻撃の隙を見計らっていた陽葵さんの速さに適応したのか、それとも回避先を当てずっぽうで攻撃したのが功を奏したのか、苺の持つ斧が陽葵さんの剣を捉えた。
とはいえ、咄嗟にそれを受け流した陽葵さんにはダメージは入らないはず。
なのに何故陽葵さんは苦悶の表情を……。
「完璧に受け流したはず、だよな?」
「流した。でも触れてしまった。苺の一撃に触れれば生身の人間は一瞬と言えどその衝撃に襲われる。つまり、陽葵さんの腕は暫く打ち身状態ってわけだね」
「それはスキルの効果ですか?」
「ユニークスキルが関与しているのは間違いないけど……それは本人から聞いて欲しいな。ほら、勝手に他人の情報を話すのはモラルに欠けるだろ?」
「それは、確かに……」
「それで? どっちが勝つのか、ちょっと分かんなくなったんじゃないかな?」
「そうですね。ちょっと面食らいましたけど……それでも陽葵さんが勝つと思いますよ」
「……ふーん。なるほどなるほど。なんとなく君たちの間柄も分かった気がするよ。これは中々見ててじれったいタイプだね、ハチさん」
「ほんと、そうなのよね。でもこれはこれで楽しめるわよ」
「そうか……。じゃあ今後と言わず、早速一緒に仕事をど――」
「うっ!」
「はぁはぁはぁ……。剣士は腕が折れようがどうなろうが剣が握れる限りは戦えるの。油断したのがあなたの敗因よ」
「くぅ……。なら、『透――』」
「そこまでそこまでそこまで! 苺、陽葵さん、今から僕たちは仕事仲間。この異変によるダンジョンの驚異の緩和。取り敢えず、5階層までの上位種討伐の間は仲良くしよ」
苺が本気になったのか、殺気が辺りに広がろうとすると、すかさず宮平さんは2人の間に割って入り、勝手に俺を仕事仲間と呼び視線を向けたのだった。
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