65話 不器用なお礼
「え? マジでいいのかよ?」
「陽葵さんが粋な計らいをしてくれたんだから、とっておかないと損よ。私、今日だけで今月の家賃分稼いじゃうんだから!」
「……そうだな。折角だからあやからせてもらおう。流石ランク10。強さだけじゃなくて人間もできているよ」
「サンキュー陽葵さん!」
「陽葵さんありがとう!」
陽葵さんから剥ぎ取りのゴーサインが出ると、探索者たちは一瞬躊躇いはしたものの、次第に拍手やお礼の声が上がり、辺りはちょっとしたお祭りモードへと変わっていった。
今のでこの階層の殆んどのモンスターを片付けたのか、今のところ他にモンスターの気配はないし……少し気を緩めても大丈夫そうではある。
ただここはダンジョン。
いつどこで何が起こるか分からない。
それに今回現れたゴブリンチャンピオンというイレギュラーな存在……俺くらいはまだ気を張っていてもいいだろう。
「――本当に糞真面目よね、遥様って。まだ知ってそんなに経ってないけど……もっとこう、リラックスしたら?」
「なんというか、こういう場にはどうしても慣れなくてな。実は単純作業……1人でこうやって仕事に没頭するのは疲れよりも、安心感の方が勝つ」
「……早死にしそうな性格ね」
「レベル100を目指してた時は丸3日寝なかったこともあって……。確かにあのときは本当に死にかけたな」
「……」
「……今のは笑うところなんだが」
「はぁ、誰も遥様にお礼をしに来ないのも、なんか納得ね。ちょっと陰気すぎるわよ」
「でも陽葵さんみたいに振る舞ったらそれはそれで可笑しいだろ?」
「難儀ね。折角ここまで強いのに。……。しょうがない。これも契約モンスターの務め。これからは、私くらいは遥様のことを思いっきり誉めてあげる。だから……お疲れ様。凄かったわよ」
「あはは、ありがとう」
俺は剥ぎ取りをする探索者たちを横目に見ながら、またモンスターが出て来てもいいように、できるだけ奥に侵入。
その場に腰を下ろした。
すると、それに気づいたハチがそっと横に並び、照れ臭そうに誉めてくれた。
人間の街をめちゃくちゃにした奴だが、人間は殺さなかったし、モンスターの中でハチは間違いなく良心。
俺はいいやつと契約ができた幸運野郎だ。
「そうだハチ。お前はあのゴブリンチャンピオンに心当たりみたいなのってあるか?2階層の統率モンスターっていう『神測』結果だったんだが、そもそも階層を与えられるのはハチみたいなモンスターだけじゃないのか?」
「うーん……。もしかすると、私があの場を離れたせい、いやリンドヴルムが自分の階層を人間に譲るようなことをしているせい……いや、よくよく考えればそれだけでこんな状況にはならない。もしかすると、私たち以外のモンスターが自分の階層を手放して……それでとうとう一部階層を一時的に、実験的に、他のモンスターに与えているのかも。ダンジョンは決して不変なものじゃないとも言っていたし……もしかすると、私たちもただただ最初、スタートを格好つけさせるためだけに選ばれたのかも知れな――」
「あ、あの、お取り込み中、し、失礼します、えっとそのえっと……」
俺とハチがダンジョンの異変について話していると、まだ若い探索者が1人俺たちの元にやって来た。
その手にはゴブリンチャンピオンのものと思われる素材が握られているが……一体何用だろう?
「これ……ごちです!」
「え?あ、ああ、どういたしまして……」
「では!」
若い探索者はそれだけ言ってその場から去っていった。
お礼……でいいんだよな。今の。
「……あはははは! 類は友を呼ぶってこういうのを言うのね!良かったじゃない遥様!」
「俺はあそこまで……。いや、ともあれ、嬉しいもんだな」
「――あの強さで謙虚な様子。新しいランク10より、私、お前気に入った」
人見知りが過ぎる探索者に心熱くさせられていると、今度は人見知り以前に、人と話すことに自体不馴れそうな少女が話掛けてきた。
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