64話 1728
『十二重斬が多重乗斬に変化しました。初回自動発動。現在1から3ま選択可能。腕の可視化を選択できます。選択後攻撃開始』
1から3……。
最大の12を掛けた攻撃回数になるってことだろうか。
なら取り敢えず……
「選択は3。派手に可視化しとくか――」
12掛ける3で36の腕が可視化されれば見映えもする。
反動はひどいだろうが、圧倒するために数回の発動を覚悟したのだが……。
「この腕……遥君のスキル、よね?」
「ふふ。流石私のご主人様だわ。なら私は、今度は全力で……『流入』」
ハチの作り出した剣から水が、魔力が、体内に送り込まれる。
沸き上がる高揚感と、満たされる魔力で体が熱くなり、それをすぐに放ちたいと思わせられる。
これなら、今の俺なら神話級の高威力魔法も使えるだろうが……ここは俺のスキルと相性のいいこれを使わせてもらおう。
きっと範囲も広いことだろうから。
「滅級魔法『水鏡』」
広い範囲、俺の視界のギリギリ届く辺りまで、これでもかと大量の魔法陣が展開され、そこから滝のように水が流れ落ち始めた。
透き通るそれは、綺麗に目の前の映像を写し……実体化する。
それはモンスターたちの最後尾辺りまで届いており……。
つまり……俺のスキルで生み出した12掛ける3ではなく、12の3乗、『1728』の腕を更に増やしながら通常届かない辺りまで俺の攻撃を届かせてくれたのだ。
一斉に振り下ろされるその腕は的確にモンスター1体1体を切り裂き、数百を越えるモンスターたちは瞬く間に死体へと変わった。
そして地面は真っ赤に染まり、血が奥から手前へと川のように流れ始める。
スキルの反動で体に気だるさが現れ始めるが、1発でこれだけのモンスターを倒せるスキルの反動としてはあまりに安い。
ただ、これだけの数を剥ぎ取るのは流石にしんどいが。
「なぁハチ、剥ぎ取りは任せてもいいか? 悪いが、ちょっと疲れた」
「ちょっと疲れたって……。あれだけのことしてそれだけって……。分かったわ、ご主人様の仰せのままに」
「魅せる剣技こそ至上、戦闘において利にも敵っている……。だけど、『狩り』は違う。遥君、あなたは『狩り』に特化している、特化しすぎている。だからこそ、私が、剣技だけは、あなたよりも常に上の存在でいないと……。強すぎる力はなんだか……」
「陽葵さん?」
「いえ、なんでもないわ。真面目な遥君にそんな心配は不要よね。私も剥ぎ取りを手伝ってくるわ。それで……ちょっと相談なんだけど」
「相談ですか?」
「こんなにモンスターの死体、素材があるなら……もっともっと恩を売るのはどうかしら?そもそもこれ全部持って帰れるわけないでしょ?」
「そう、ですね。でも俺が言っても押し付けがまし――」
「皆! モンスターたちの討伐者、並木遥から了解を得たわ。ここにいるモンスターの素材は自由に持ち帰ってよし、探索活動の資金に当てて頂戴!」
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