63話 神水
「う、これ……」
「お、おいハチ。本当に大丈夫なんだよな」
「やってることは攻撃、じゃなくて……強化、というか、魔力の譲渡だから。それに量はこっちである程度コントロールしてあげてるんだから、弱音とか贅沢は言わないで欲しいところね。陽葵!これで、私の魔法を使えるはずよ!」
「神話級……」
ハチが生み出した剣から水が溢れ出て、陽葵さんの体に徐々に吸収されていく。
それと同時にハチは額から大量の汗を流して、膝を地面に着けた。
コントロールをしているということだったが、それに要する体力の消耗は膨大なようだ。
対して悶えるような仕草を見せる陽葵さんは、そんなハチから受け取った魔力と魔法を行使するために、魔法陣を展開、そっとその魔法の名前を絞り出す。
「『神水・天罰』」
魔法陣から出た煌めく水を剣で受け止めた陽葵さんは、ゴブリンチャンピオンの胴体目掛けて駆け出すと、そのまま上半身を斬った。
指よりも厚みがあるからか、それとも一撃をもらったことで攻撃を受ける準備ができたからなのか、真っ二つとはいかない。
筈だった。
「神水が傷から侵入。私の攻撃を模したそれは内側からモンスターを切り裂く。変幻自在の超攻撃的な水。それが神水」
「がっ……」
陽葵さんが剣先を地面に向け、戦闘終了の合図を見せると、ゴブリンチャンピオンの体は遅れて8つに裂かれた。
対応適正レベルから苦戦しても可笑しくない一戦だったが……気付けば圧倒。
ゴブリンチャンピオンは情けなくその体を地面に落とした。
「はぁはぁはぁ……。凄いわね、この魔力」
「ま、まだまだ、こんなものじゃないわよ。全力で受け渡せたら、数十倍に裂くことも、できたわよ。でも、そうね。コントロールにこれだけの体力をもってかれること、使用者にかかる負担値、神水の使い方、それらを知ることができたのは良かったわ」
「こっちが素直に誉めてるんだから、あなたも素直に誉めてくれてもいいのよ」
「……。まぁ、私の魔力を受けてまだ余裕がありそうなのは想定外ね」
「最初から私がこうなるって分かってたの? もし私があのまま動けなかったら――」
「陽葵なら遥様の出番を作らなせるようなことはしないでしょ」
「……。当たり前よ。でも、ハチさんのせいで雑魚の相手は一緒にお願いしたいかも」
ゴブリンチャンピオンが死に、辺りからそれを悲しむような声が響き渡った。
そうして、道の先から数百匹はいるであろうのゴブリン、それにこのダンジョンに出現するモンスターが数十匹押し寄せてきた。
「陽葵さんが私たちを助けてくれた。だったら今度は、私たちが」
「そうだ! 俺たちも一端の探索者。おい! 全員であいつらを倒すぞ!」
危機的状況とも言える中、陽葵さんに助けられた探索者たちが、立ち上がり剣をとった。
このカリスマ性も陽葵さんらしさの1つだが……このまま彼ら彼女らに任せれば死人が出ること必死。
今度こそ俺の出番というわけだ。
『神測。ゴブリン230匹。コボルト21匹。ミニデモン15匹。大量のモンスター殲滅に必要なスキル保有なし。スキルを……補完完了』
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