60話 練磨された剣技
「ひっ。いやあああああぁああぁぁあ!」
2階層。
相も変わらず探索者が倍増していて、そこら中に探索者の姿、そして遠くにいるせいで姿こそ見えないものの戦闘音や声が響き渡っている。
しかし、モンスターが知能レベルの高いゴブリン主体の階層になるため、1階層の時と比べるとかなり快適に感じる。
そんな2階層だが、快適なのは自分たちだけ。初めての侵入してきたであろう探索者たちの悲鳴が響き渡っている。
特にゴブリンは人間の女性を異性、それ以上の何かに捉えている節があり、自分が優勢たったと分かればそこからは殺し合いではなく、性的暴行に変わるらしく、チームを組んでも真っ先に女性が狙われるのだとか。
現に今の悲鳴も女性のもので……助けに行きたいが、その状況を見るのが怖いと思ってしまっている。
こう思うと、正面から馬鹿の1つ覚えで突っ込んできてくれたスライムやコボルトが良心的に感じるな。
「うーん、もっと開けた階層じゃないと、さっきの魔法は使えないし、手分けして1匹ずつ処理――」
「なるほどね。ハチさんはどっちかというと魔法主体で、小回りは利きにくいタイプってことでしょ? なら、宣言していた通り、ここは私が全部片付けるわ。『誘惑の居合い(デコイクイックドロー)』」
陽葵さん必殺の居合いスキル。
その妖艶な雰囲気、匂いに誘われてゴブリンたちは目の前の探索者を無視して陽葵さんの元へと駆け出した。
悪戦苦闘していた探索者たちは何が起きたのか理解する前に安堵の息を漏らす。
そして数秒後、振り返った時には閃光にも似た一太刀が解き放たれる。
舞い上がったゴブリンの血渋きを背景に納刀する陽葵さんのその流麗な姿は、探索者たちだけでなく、俺も、多分ハチさえも魅了している。
ステータス上だけでは表せない練磨された剣技。
これが俺の憧れた強さ。
助けられた探索者たちは1階層で俺とハチが戦ったときとは違い、賛美の拍手を送る。
「やっぱり……綺麗だ」
「……遥様」
「あ、すまん。モンスターといえど命が経たれる瞬間だったのに……不謹慎だったよな」
「別にいいんですけど……。そんな顔も、できるんですね」
「顔? 俺の顔なにかおかしかったか?」
「……いいえ」
不思議そうな、それでいて嬉しそうな、でもそれが少しぎこちないような、なんとも現しにくい表情を見せるハチに俺は質問を投げ掛けた。
だが俺の質問が気に食わなかったのか、ハチは素っ気なく首を振った。
「私も、剣を勉強しようかしら――」
「遥君、陽葵さん! どうかしら、これくらいなら私だけでも問題ないの――」
「ぐああぁぁあああぁあああ!」
剣技だけで荘厳な雰囲気を醸し出していた陽葵さんは、次の瞬間にはいつも通り。
俺たちにこれでもかと、どや顔を見せてくれた。
しかし陽葵さんのスキルの効果なのか、遅れてやってきたモンスターがありったけの雄叫びでそんな雰囲気をぶった斬った。
「新手ね。でもこの声……。ただのゴブリンじゃないわ。陽葵、ここは遥様に――」
「いいえ。ここは私がやるって決めているの。強敵?いいじゃない、契約モンスターの力を借りる練習にはもってこいね」
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