59話 大海
「あらあら、人間の匂いに釣られて雑魚がたむろしてるわね。じゃあ1度1ヶ所に集めてあげる。神話級魔法、『大海』」
ようやくダンジョンへと足を踏み入れると、大量のコボルトとスライムがまるで俺たちを出迎えるように襲い掛かってきた。
見れば他の探索者たちにも、手当たり次第攻撃を仕掛けているようで、かなり前方にいたはずの探索者がまだこんな入口付近で戦っている。
そんな状況を見たハチはニヤリと笑って見せると、魔方陣を複数広範囲に展開。
大量の水が至る所から放出され、辺りはあっという間に水浸し。
それによりモンスターが怯んだことで、探索者たちは慌てて退避。
魔法によって生み出される水は更に勢いを増す。
だがその侵入範囲は限定されているのか、それともハチがコントロールしているのか、水はある一定で塞き止められ、そのかさを増やす。
「うねらせうねらせ渦ませ渦ませ、流れは激しく、見た目は雄大に」
水の中心に大きな渦が現れるとそれに続いてあらゆる方向から巨体な波が発生。
地上にいるモンスターたちはどこにいようとも関係なく、波によって渦の中に飲まれていく。
「なんだよこれ……」
「こんな魔法、私知らない」
魔法というよりも自然災害に近いその光景に、他の探索者たちは呆気にとられ足を止める。
するとそれを狙っていたかのように、今度は上空からモンスター。
キラーホークと呼ばれるそいつは、落下による速度上昇を利用して、人間の目を抉りついばもうとする。
その数はおよそ10。
他の探索者こらすれば脅威だろうが、俺にとってはスキルの力を遺憾なく発揮できる丁度いい群れ。
剥ぎ取りのことも考えて、できるだけ売れる部位は傷付けずに……
「『十二重斬』……駄目だ、まさか威力が高すぎて何故か破裂とは。素材狙いなら素手が安定だな」
飛び散ったキラーホークの肉と血。
溺れ死んだ大量のコボルトとスライム死体。
たった数分の出来事ではあったものの、辺りには静けさが訪れ、動いているのは、俺たちだけになった。
まるでそれは時間が止まったのかと想うほど。
「干上がれ……『大海』解除。……ふぅ。ある程度制御はしたけど――」
「雑魚相手にやりすぎね。凄いけど、それじゃあ今日1日もたないわよ」
「いやぁ、モンスター共を1ヶ所に集めるだけのつもりだったんだけども興が乗っちゃってね……。でも剥ぎ取りもできなくなるほど、思いっきり殺した遥様の方がやりすぎだと思うわ」
「それは……確かにやりすぎた」
「まぁあんまり儲かるモンスターはいないから、気にしなくてもいいと思うわ。さ、他の探索者たちがボサッとしている間に剥ぎ取りを済ませるわよ」
「おっ!流石の手際ね! よっ、剥ぎ取り屋!」
「誰が剥ぎ取り屋よ! 見てなさい、ここから下は私が大活躍して見せるから」
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