58話 モチベーション
「結局スパッツ買うからって……この時間だと1番混むんじゃないの?」
「だからさっきから謝ってるじゃない。服も買ってあげたんだから許してよね」
「まぁそれは……ありがとう。でもその分食料を増やしても良かったかも。これ、ちょっと美味しすぎる」
「ハチ、一応全員分だからな。程々にな」
買い出しを済ませてダンジョンの入場待機列に並ぶ。
ハチは陽葵さんのスパッツを選ぶ時間のせいで混んでしまったと言っていたが、そんなのは関係ないと思わせるくらいの、今までに見たことがないほど長い列。
入場まで30分という看板まで立てられ、ハチは暇な時間を利用して間食をとり始めた。
ポテチのパリパリ音、それにかき消されそうな声まで、こう暇になると気になってしまう。
「あれ、噂の……だよな?」
「昨日の今日ですぐダンジョン。やっぱり今、ダンジョンには『何か』がある」
「それに10階層を過ぎたものには今後褒賞金がでるってのもいいよな。まさかあのケチで有名な探索者協会が思い腰を上げるなんて。ガセとか、やっぱりなし、とかはないんだろ?」
「今日オロチ討伐に関わった何人かが褒賞金の受け取りに来たって、画像が上がってたから間違いないさ。ほら、公式サイトだとまだだけど、協会の1階に貼り紙が出てる画像をランク7の人もあげてるし」
「やっぱガセじゃなかったか。こっちのモチベーションは上がるしありがたいけどさぁ、急にこんなサービスするって雪でも降るんじゃないか?」
「流石に最高到達階層が変わらないのは良くないと踏んだんだろうな。それにもうオロチが出ないから、安全面的にもいいって思ったんだろ」
近くにいた探索者たちの話に聞き耳を立てる。
その内容は……まぁおおよそはあっている。
俺とハチの作戦に気付いたのに、何故わざわざ褒賞金をくれたのか、申請手続き中にそれとなく京極さんに聞いてみたが、実績を上げれば褒賞金が貰えるという前例を作り、褒賞金を与える仕組みを設定、停滞している最高到達階層を更新させる足掛かりにしたいらしい。
新しい素材は新しい取引先を開拓するアイテムにもなるからな。
それと、オロチが居なくなったから、というのも当たっている。
今まではオロチ、ハチの気を悪くしないために探索者を無闇に深い階層へ急かすようなことはしていなかった。
ランク10の人たちにもその辺りは制限していたようだ。
だがそれはなくなった。
他の探索者はまず最高到達階層だと思っているところに全力で向かうだろう。
そんな中俺たちは30階層からがスタート。
誰よりも深い階層に進んで、貴重な素材を入手、最高到達階層を更に大幅更新、世間に今度こそ強くなった俺を見せしめて、一気にランクを上げてやる。
「遥君、次私たちよ」
「陽葵さん。1階層は俺がやります。一先ずその場にいる探索者たちには俺のレベルを信じさせないと。無駄に派手にいきます」
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