56話 深まる
「普通のモンスターと契約……そんなことできたのねえ」
「ハチも知らなかったのか?」
「特別じゃないモンスターって話せないどころか、意志疎通もできないことが多いし……。意志疎通ができたところで、契約がどうのこうのって聞くこともできないから。それに私たちですら、契約についてはその階層を与えられた時に知ることができたことだもの」
与えられた。
そういえばその辺りの話をまだ聞いてなかったか。
丁度いい機会、少し掘り下げてみるか。
「そうか。それでその契約について教えてくれたのは誰なんだ?」
「あれは……多分人間だったと思う。神なんていうものを信じる奴らもいるけど、私は人間だと思うわ。それで……あいつがダンジョンを作った、と思う」
ハチの言葉を鵜呑みにすると人間がダンジョンを作ったことになるが……やけに曖昧な答えばかりでそれも確定できない。
「多分とか思うとか……。実際に会ったんだろ?」
「こっちの質問に答える気なんてまるでなくてね。私たちはただ言われるがまま。だからあいつを神って呼ぶような奴らが出てきたってわけ。それよりも、普通のモンスターと契約ができるなら、あなたもいつか自分で契約の相手を探すといいんじゃない?これって結局は仮契約で、結局は遥様ほど私のスキルを共有しきれない。つまりこのままだとあなたはいつまでも遥様の下位互換……って聞いているの?」
「も、勿論聞いてるわ! こ、この歳でキスの1つや2つで動揺? そんなのするわけないじゃない! それに下位互換? 馬鹿言わないで。対モンスター戦ではレベル4000でステータスの高い遥君に軍配が上がる。でも私にはまだ剣技がある。明確な差別化は可能よ。とはいえ私が弟子とも言える遥君と同じモンスターと契約、しかもその負担になるだなんて駄目。私も自分と契約できるモンスターを探して、育成? するわ。もしかしたらハチさん、あなたよりも優秀な子と契約することになるかもね」
「……。ちょっと意地悪してやって正解だったみたいね。いい?あなたは遥様の憧れ、目標なの。鬱陶しく卑屈になられて万が一遥様までそんな風になったら……一緒に暮らす私が気まずいったらないわ。さ、あなた……じゃなくて京極さん。探索者の申請をお願い。それと、普通のモンスターと契約する話はできるだけ早く準備をしておいて」
「……わ、了解です」
諭すような導くような、ユーモアの中にも気品や気高さを感じるその言葉につい呆気にとられたのか、京極さんはいつもより堅い言い回しで返事をした。
「さぁて申請が終わったら本格的にモンスターを狩って狩って狩って……課金するわよ!」
「その前に女の子なんだから必要なものを揃えないとでしょ!」
「そんなのは全部遥様に――」
「あなた遥君は主なんだからもうちょっと遠慮、というか役に立とうとしなきゃ駄目でしょ!」
「……。鬱陶しい。遥様がお堅いのはあなた、陽葵のせいね」
「一応私も契約しているのよね?なのにその態度は何?」
陽葵さんのハチに対する強気な態度は変わらない。
だが……。言葉だけじゃ分からないだろうが、その表情はどこか砕けたように見えて……これが喧嘩するほど仲がいいってやつか。
良かった、互いに不倶戴天の敵にならなくて。
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