53話 母
「え? あなた……」
「京極、さん?」
「会長も。もう調査は大丈夫ですよね?同じランクを与えるに申し分ない実力であることは明白。これ以上戦って怪我でもしたら『母』に怒鳴られかねませんよ。いくら母の目を遮断した状態だからって、無茶はよくないと思います」
「それは……確かに困りますね」
ハチが振り上げた拳を地面にぶつけると、京極さんはほっと息を吐き、最低限気を遣いながら会長に意見し始めた。
あの鱗を見たとき、京極さんが会長と契約しているのモンスターかと思ったが、どうやら微妙に予想は外してしまったようだ。
『母』……。もしかすると、京極さんは昨日ハチが適当についた嘘に近い境遇或いは全く同じ境遇ということも考えられるか。
「オロチ、もといハチさん。改めまして探索者としての申請可おめでとうございます!早速申請をしに――」
「あなた、いつから気付いていたの?それに『母』っていうのはリンドヴルムのことよね?ビビりだからって娘が私と一夜を過ごすことをよく傍観できたものね」
「母は戦いが終わったあと、平穏を求めました。それで自分が戦う可能性を潰すために人間と契約をして……。この階層通称0階層を人間のため、ないし自分のために発展させたのも母。今さらあなたと戦うことは何が何でも避けたかったのでしょう。ただ、心配からか頻繁にスキルで覗き見してきますけど。それと、いつから気付いていたか、ですよね?母はそんな性格なので、私があなたに興味を持たないように、情報は教えてくれていませんでした。だから気付いたのはすぐではありません。ただ……自分がオロチとの混合種っていう話には疑問が沸きましたね」
「疑問?」
「その身体混合種にしては、オロチの特徴が浮き出すぎだなって……。それに、いくら人間に肩入れしているとはいえ、自分の親が殺されてあんなにさっぱりした顔をしているのはおかしいですよね」
「あらあら……自分ではいい、言い訳だと思ってたんだけど……墓穴を掘っちゃってたみたいね」
ハチはやれやれといった様子で手を上げ首を振った。
スマホの持ち込みの件で只者ではないと思ってはいたが……。これは予想の斜め上過ぎたな。
「それであの子、リンドヴルムは元気? 絶対に戦わないと約束するから、こっちの美味しいものでも紹介してもらいたいのだけど」
「それは母の性格的に厳しいかと……。それに――」
「ここ最近リンドヴルムは、何かに怯えるような声色で……。昨日はまるで天変地異が起きたように怖がっていました。何が原因かは分かりませんが、しばらくは無理でしょう」
「そうか、それは残念。あはは、もしかして私がこうして契約者と地上にいるのが怖――」
「ハチさん。美味しいものは私が食べさせに連れていってあげるわ。この件について、私にダメージを与えてくれたたことも勿論含めて、たっぷりと話を聞きながら楽しい楽しい食事にしましょう」
ハチの肩に置かれた陽葵さんの手はいつもより妙に血管が浮き出て見えた。
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