51話 媚びた1匹
「神話級魔法『暴旋千神槍風』」
「また、神話級……。会長さん、あなたもしかして……」
「『流石にあなた』でも、詮索している余裕はないはずですが?」
ドリルのように轟音を鳴らしながら渦巻く複数のつむじ風。会長はあろうことかその先端を俺たちに向けた。
俺は最悪あれを受けてもハチか他の竜たちが生きていれば復活できる。
だが、陽葵さんや京極さんはそうはいかない。
「ハチ!俺は陽葵さんを守る!ハチは――」
「分かってる!こっちの子は私が担当するわ。それと……遥様はこれを使って!」
「助かる。陽葵さん、何があっても俺の後ろから出ないでください」
「……。わ、分かったわ」
俺が陽葵さんの前に一歩出ると、ハチは急いで水の剣を生み出し投げ渡してくれた。
俺が使える魔法は最上級まで。
いくら通常よりも威力が高いとはいえ、神話級魔法に対抗できるとは思えない。
となればもしこっちに攻撃が飛んでくるようなら、この剣のみで対応しなければならない……。
折角作ってくれたものにこんなことを言うのはどうかと思うが……この剣一本だけだと心許ないな。
「俺も神話級魔法が使えれば……」
「神話級魔法が使えない……。ということは正式な契約はしていないのでしょうか……。もしかすると、ここで生活を送るため、そして、名誉を得るために、お互い何か対価を支払って……。いっそのことステータスを覗いて……いや、それは嫌がっているのだから、紳士として……」
「何をぶつくさ言ってるのか知らないけど……。そういえば、早々に戦いに負けたにも関わらず、各方面に媚まっていたのが1匹いたのを思い出したわ。下の奴ばっかり気にしてたけど、そういえばここは元々人間ではなくあなたのものだったわね」
「私の契約対象にようやく気づいてくれたようですね。……モンスター、『オロチ』」
「あなた、あなたたちは私に気づいていたわよね?一体何が目的?」
「目的は初めから言っていますよ。資格の調査、だと!!」
会長はハチの正体を看破していた。
それに契約についても知っている様子。
となれば神話級魔法が使える理由も、その契約によるものだと推測できる。
おそらく会長が契約しているのは、神話級魔法が使えるモンスターなのだろう。
「ハチさんが、オロチ……ってそれよりも!」
「くっ!」
会長の生み出したつむじ風は容赦なく俺たちの元にやってきた。
咄嗟に水の剣でガードはしたものの、つむじ風の回転力と暴風が合わさって水の剣はごりごりと削られていく。
『神測。水の剣の耐久力、残り僅か。消滅まで30秒』
「くっ……。十二重斬」
追い込まれた俺は駄目元で、スキルを発動。
するとつむじ風は12に分断され、消えて……はいかず、さらにその数を増やし、俺たちは四方八方囲まれてしまった。
「陽葵さん!」
「駄目、遥君!」
そして俺は魔法に抗うことを諦め、陽葵さんを覆うようにして攻撃を受ける体勢へ。
「――あれ、痛くない」
痛みを覚悟して閉じた目をゆっくり開き背後を見る。
すると、そこには俺たちをかばって血を流すハチの姿があった。
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