48話 会長
「――そう。さっきのは気のせい、だけど……。これは気のせいじゃないな」
「な、なんだかこんなに見られてると緊張しますね」
「目当てが俺や京極じゃないと分かってても、流石になかなかくるものがあるな」
探索者協会への道中、俺たちは街の人たちの視線を一斉に浴びながら、歩いていた。
ハチはその見た目に反して、愛嬌の良さが動画から滲み出ていたのか、それとも物珍しさからなのか、一部の人たちから歓声を浴びている。
陽葵さんも流石のランク10ということで、羨望の眼差しが向けられ、今回オロチを討伐したことになっている俺はというと……。
「あれがレベル4000とか言ってる……。なんか陽葵さんに比べると、地味っていうかなんというか、本当に強いのかな?」
「動画を見る限りは強いはずだけど……。中身すかすかのレベル100から急にあそこまでってちょっと考えられないよね」
「本当は陽葵さんがオロチを倒していて、可愛そうな後輩に譲ったんじゃないか? 動画なんていくらでも編集できるんだし」
「結果としてオロチは倒せたんだから、そんなに気にすることないんじゃないか。それに、そのうち誰かがスキルで正確なステータスを調べてくれるさ。前だってそうだったし、今回の実績があれば2ランクアップもできたはずなのにしていないっていうのは、つまりまだ探索者協会も様子を見てるってことだと俺は思うぜ」
どいつもこいつも懐疑的な目で見つめてくる。
わざわざ攻撃をしてくるような奴らは、マスコミに紛れていたので全部だったみたいだが……これはこれで気持ち的にダメージを受けるかもしれない。
「――いやはや凄い人気ですね。まさか、あんな急拵えな動画がここまで世間の気を惹くとは思いませんでしたよ」
まるでパレードのようになってしまったこの状況を見かねてか、正面から60代位の男性が現れ、俺たちに声を掛けてきた。
明らかに上の役職の人間だとは思うが……。
細いながらもしなやかな筋肉、歩様、陽葵さんに似た雰囲気……探索者としてもかなりの実力者で間違いな――
「お、おはようございます!会長!」
「京極さん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。別に遅刻してるわけでもないのだから」
「会長……この人が」
「これは失礼しました。皆さん初めまして。私は探索者協会会長の矢沢彰人と申します。あまりメディアに顔を出すことはしてきませんでしたから、その反応は仕方ないといったところですね」
俺たち探索者からすれば雲のような存在。
地上で例えるなら総理大臣、いや天皇陛下くらいの感覚。
まさか、そんな人に出迎えて貰えるなんて思っても見なかったが……。それだけ俺とハチは警戒されているとみていいだろうな。
「資格調査を行う前に、オロチ討伐の褒賞金の受け渡し、それと単純にお礼をさせてください。あ、京極さんも今回の功労者だから、並木さんたちと一緒についてきてください。……。それにしてもまさか、ですね」
会長は俺とハチに目を向け、少しその口角を上げた。
「あ、そうそう。それでですね。資格調査の内容等は機密事項なので……その目は消しておきましょうか。神話級魔法、『全解除全無効全対策全阻害』」
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