47話 にぶちん
「なんかデカイ音がしたが大丈夫か?」
「私が職場に行けないとか、急かしたのが良くなかったですよね。普通に考えれば、ちゃんとした場ではないところの人の群れなんて危険でしかなかったのに、って誰もいない?」
「他にも大きな事件があったみたいで、そっちに行かれたみたいよ。そんなことより、京極さんの出勤時間もあるだろうから、さっさと準備して出掛けましょう。リーダーも今日は探索者協会に用事があるんでしょ?」
リーダーと京極さんは一体何があったんだ、と言いたげな顔を見せたが、陽葵さんの不機嫌そうな様子を察して口をつぐんだ。
レベルとか攻撃力とか、それとは関係ないこの威圧感こそランク10なのかもしれない。
「ん、あ?みんな外で何してるの?」
「ハチさん……。あなた、昨日遥君から服を借りたでしょ!それなのになんでまた脱いで……。今日はあなたも探索者協会に行くんだからね!」
眠たそうなその目を擦りながら、空気を読まずに現れるハチ。
陽葵さんの声は大きくなったが、それとは裏腹に何とかこの場は和んでくれたみたいだ。
「まったく……。それと遥君も一応準備しておいてね。探索者協会の人たちに何を聞かれるか分からないから。勿論私もハチさんのフォローはするつもりだけど、あまり頼りにされ過ぎても、私だけじゃどうしようもないこともあるから」
「え?陽葵さん、資格調査付き合ってくれるんですか?」
「当たり前じゃない!私と遥君は、そのなんと言うか、ハチさんの保護者? みたいなものだからね。あ、別に夫婦みたいとか、そんな感想はいらないから」
何故か頬を赤らめる陽葵さん。
それを見てにやにやするリーダーと京極さん。
俺が人と絡むことに長けていないからなのか、状況がよく掴めない。
「……。遥様、にぶちんね」
「二日酔いの寝坊助に俺が何か劣っている、だと?……悔しい。俺はこう見えて努力は惜しまないタイプ。その差を埋めるためにだってもがけるぞ。だから何故か声を掛けにくくなってしまってはいるが……。陽葵さん、取りあえずこの状況を細かく説明して頂けないで――」
「遥君のくそ真面目……。そんなくだらないことしてないで、さっさと準備!」
そそくさと戻って行く陽葵さん。
そのあとを追うようにしてリーダーたちが、やれやれと言った様子でその首を振りながら、俺の肩を軽く叩き、部屋の奥へ戻っていった。
「一体なんだって言うんだよ」
「あー、頭痛いけどお腹空いた!遥様、カップ麺よろー!」
「朝からそんなもの食うなよ。全く――」
「ん?どうしたの?」
「……いや、何でもない」
俺は背後に視線を感じた気がして一瞬振り返った。
だが、そこには誰もいない。
そう、今のはきっと気のせいだったのだろう。
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