43話 居住区
「くあぁぁあああぁあ……」
「……」
「あ、あの、ハチさん、こういうのって確率だから、次のピックアップで収束するって……」
「お、金、もうない……」
ダンジョン街に戻ってからしばらく、慎二を討伐隊のリーダーに任せてハチの目的を果たすため、モンスターの素材を売却。
コンビニで3万円のプリペイドを買っていた時はあり得ないくらいにウキウキしていたのに、ガチャが終わればあり得ないくらい意気消沈。
心配だったのか付いてきてくれていた陽葵さんがずっとフォローをしている。
端から見れば姉妹みたいで微笑ましいが、当人たちは本当に大変なんだろうな。
「陽葵さん。なんか、本当にすみません」
「いいのよいいのよこれくらい。それにしても、ずっとダンジョンにいた人だとこういうゲームも楽しくってしょうがないのよね。ほらハチさん、もうちょっとすれば討伐隊のリーダーが美味しいものいっぱい奢ってくれるみたいだから、元気だして。そうだ、一回家に帰ろう。最近買った紅茶があるから」
「家?」
「そうよ。ハチさん、ここで暮らすなら家がいるでしょ?だったら女同士私の家を――」
「それは嫌よ。私、遥様と一蓮托生だもの」
「……遥、君?」
目は笑っているが、青筋は立っているし、口元がひくついている。
そういえばハチの家については全く考えていなかったな。
「……。そもそもランクの高い陽葵さんの家、というかその区画に俺たちは入れないじゃないですか」
「あ……。じゃ、じゃあ道場に――」
「あそこ寝具ないですよ」
「……」
ダンジョン街はランク至上主義。
ランク1~3、4~6、7~9、10。
居住区は全て別れていて、ランクの低い者は、立ち入りできる区画を制限されている。
探索者として活動できない者は、商業区での実績、親族のランクを元に居住区が決まっているらしい。
因みに俺が住むランク1~3は役所や探索者協会への申請がなくても、立ち入りができて……いわば無法地帯。
デメリットばかりに思えるかもしれないが、そこに住む弱い探索者は陽葵さんの親が保有運営する道場など、その区画特有の施設を優先的に利用できる。
最近だとこの区画に住む人限定の学校もあるのだとか。
俺の時代は、地上の学校に通うのが一般的だったが……。
いじめの影響は俺が思う以上なんだろうな。
「はぁ……。まぁ遥様って、ダンジョンにある私の家でも襲おうとする気概は見えなかったから大丈夫よ。それに……もしそうなっても私、あんまり嫌じゃないわ。むしろこのストレスを発散したいかも」
ハチははち切れそうな胸をわざとらしく寄せて、そっと俺の腕を掴んだ。
がっかりしながらも、自分なりに面白おかしく、陽葵さんに心配かけないような言動をとっているつもりなんだろうが……これはちょっとやりすぎだ。
「……。じゃあ私も一緒に住む」
「え?」
「遥君の部屋はちょっと窮屈だろうから、2人が住んでも全然余裕のある私の家を使えるまで、そこまでランクを急いで上げるわよ。オロチより強いモンスターのこともあるし……。色々一段落したばっかりだけど、明日からもっと忙しくなりそうね。さ、遥君、家まで案内してくれるかしら」
……。
その視線を向けられて断れるわけがない。
はぁ。俺、陽葵さんとは一緒に戦いたいとは思っていたけど、そこまで一緒に、なんてな……。
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