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401話【陽葵視点】焦がす

「ただの衝撃波……じゃない。たった一振しただけだぞ」



 先頭を行く探索者仲間の一人が呟く。


 そう。ただの拳圧、それによって巻き起こる風のそよぎは一瞬のはず……それなのに矢沢のそれは永遠と居残り続けている。



「――操作する意思がなければ勝手に滞留するらしい。この辺りは鍛練によって変えられそうだが……今はこのままで構わない。それどころか、雑魚を一掃するには丁度いいな。しかも身体への負担を感じないのだから最適なことこの上ない」



 矢沢が腕をもう一振すると風が強まった、だけでなく身体の中までそれによって揺れ動くような感覚に襲われる。


 迸る炎が、赤の力が膨れたり漏れたりして……気持ちが悪い。


 外部からの干渉に抗う力も赤のお陰で強くなっているはずなのに……これじゃあ他の人たちは――



「う、ぐ……。ごはっ!」



 ――べちゃっ……。



 膝を、手を……立っていることが難しくなってしまった探索者たちは四つん這いの体勢になってしまうと口から血を吐き出してしまった。


 風を受けていることもあってその血は舞い、地面だけでなく顔や服までも汚していく。



「風が君たちの身体を駆け巡ったから、傷をつけ吐血。一見そう思えてしまうが、それだけじゃない。これは単純な……強者による弱者への一方的な押し付けなのだよ。技術もなにも必要のない、この身体、魔力を有する変化後の私だからこそできるパワープレイ。そしてそれはより激しくすることもできる」



 矢沢が拳を握ると二の腕はより太くなった。


 矢沢の年齢からは考えられないほどの肉体美で、恐ろしくすら思える。



 どういう仕組みかは分からないけど、本当の自分を知った私にはそんなものはどうでも良く思えた。



 ただ、強いて言うなら敵が強くなってより多くの経験値を手に入れられるようになったな、ってその程度。



 そして、探索者たちの悲惨な光景による悲しみよりもその事実による高揚が上回っている。



「もっと……燃えてっ!!」



 自分の中に入り込んだ風、そして矢沢の魔力。


 これらを暴れさせないよう、意識的に炎を強くさせようと試みる。



 引かせることは出来ないみたいだけど……燃え上がらせるのはびっくりするくらい簡単なのね。



「はぁはぁはぁはぁ……うふふ」

「……。君も竜になる、か……。だがその炎……自分自身を焦がしてしまうことになるほうが早いだろうね――」




 ――ゴン。



 鈍い音、皮膚が触れる感触はあったけど、骨にあたったみたいで意外に高い音は出なかった。


 でも……。



「やっと手応えがあった……。ふふふふ、もっと、もっと燃えて……私は強くなる」



 熱い。

 だけど高揚感が悲しみを上回ったみたいに気持ちの発熱が皮膚を焦がす物理的な熱さを軽く凌駕してしまっていた。

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