398話【陽葵視点】回想2
「――陽葵、少し休んだらどうだ?最近はダンジョンにも頻繁に潜っているようだし、あまり無理をするのは……」
「今さら何言ってるの?昔はあんなに厳しかったのに……。経った数年で丸くなりすぎよ。そんなだから門下生に嘗められるのよ」
「いやいや、全然嘗められてなんか……いない、よな?」
辺りを見回すお父さん。
その視線に気づいても門下生の人たちは私たちに向かって微笑んでくる。
お母さんがこの世を去ってからもう5年以上。
私は高校に上がると、探索者の素質を見るテストを受けて特別クラスに振り分けられた。
自分で言うのもなんだけど、私は周りよりもダンジョンにおける戦闘が優秀。
高校生にも関わらず監督役なしでダンジョンに潜ることが許され、探索者として既にランクを与えられた。
だから今日も道場での稽古が終わり次第ダンジョンへ向かう予定。
本当はもうこの剣道場で学ぶものもないのだけど、準備運動とお父さんの心配を少しでも減らすために通ってる。
「うおっ、ほん!! ……。さてと、全員元気いっぱいのようだから久々に俺と打ち合いでもしようじゃないか!!」
「「ええぇぇぇ……」」
やる気で満ちたお父さんと辟易とする門下生の人たち。
それを横目に私は何食わぬ顔で剣道場を出ていく。
「あれで門下生の人が減らなければいいけど……。って心配はないかしら」
剣道場の近くをいつものようにふらふらと歩く少年と、それを遠目に見るもう一人の少年。
年齢は私とそんなに離れてはいないと思う。
けどまだ伸び盛りなのか身長は私よりも低くて、可愛らしい。
最近ちょくちょく見るけど、やっぱりうちに入門したいみたい。
「ま、私には関係ないけど。……。だって私はモンスターを殺して殺して……お母さんみたいに、じゃない。お母さんを越える。お父さんが心配しないくらい、圧倒的に」
きっとお父さんもそれを望んで、お母さんみたいになって欲しくなくてしごいてきた。
なら応えないと。
いつでも笑顔でいられるように強く強く……。
「いっぱい殺さないと。ううん、殺したいの」
口角を上げてダンジョンへ向かう足を速くする。
「うふふ……。楽しみね」
私はまるで遠足に行く時のように胸を高鳴らせていた。
◇
「――そう……あの時の私は、笑顔がずっと狂気で満ちていた。モンスターを殺さないといけなくて、でもそれが楽しくて……。私は……本当は――」
「「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」」
赤の言葉で過去の自分を思い浮かべ、また嫌な笑い顔を作って……力に飲まれてしまいそうになった、その時……もう動くことのできなかった仲間たちの熱い叫び声が耳をつんざいた。




