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396話【陽葵視点】炎

「くっ、うぅぅうぅ……。強く、私はもっと強くな、る。ならないといけない」



 周りを見渡す。

 血塗れで最早動くことすらままならない前衛、流石に魔力が切れたのか地面に膝をついて嗚咽を漏らす後衛。


 動けるのは、私だけ。


 私がもっと……もっと強くならないと……私が……遥君に、こいつに勝つって、そう言ったんだから。



「矢、沢ぁぁああぁあっ!!」

「炎……そうか、ここからが本番というわけか。であればこちらも……」



 胸の内で滾っていた熱いものが身体から流れ出ていく。


 その正体は紛れもなく竜の力からなる炎で、翼の根元部分から一気に放出された。


 その勢いによって私の身体は前進、翼も連動してはためき、一気にアクセルを踏み込むようにして加速。


 矢沢の腹部、最初に傷をつけた部分を狙って剣を差し向けた。



「……風の、小さな壁。これで防ぎ受け流していたのね」

「ほう。見えないように工夫していたのですが……今の状態であれば見切られてしまいますか。ですが、これをどうにかする術を持ち合わせてはいな――」



 剣は矢沢の展開する風の障壁によって受け流されてしまった。


 だけどその切っ先がそれに当たったのは確かで、小さくではあるけど、傷が見えた。



 だから私はそれ目掛けて手を伸ばし、指を引っかけた。



「ぐ、ううぅ……」

「まさかこれを破ろうと……。ふふふ、面白い。だが簡単にいかせるわけがないでしょ」



 矢沢は障壁に向かって手をかざして力を込める。

 どうやらこれは本人の身体能力、筋力などを基盤に展開されているものらしい。


 だから竜の力による影響が強くなることで壁はより強固になり、受け流す工夫を凝らすこともなくなる。


 他のスキルや魔法による補助も見受けられないから、コストパフォーマンスも高そう。



 年齢を問わない雑に扱える使い勝手と高い強度による優秀な壁、だけど……。



「う、あああああっ!!」

「なっ!? 炎が、そんなところからも」



 私の滾る思い、炎はそんなスマートなものでは止められない。


 肘辺りにも生え揃った鱗、その間から炎が噴射して指はより深いところに引っかかり、傷を抉った。


 そしてはしたなく脚までもそこに差し込ませ……壁は崩壊。



「ちぃっ!」



 慌てた矢沢は尻尾を振り、私の身体を叩く。


 痛い。でもそんなのは私のターンを終わらせる理由にはならない。



 剣をしまってひたすらに殴って殴って殴って、焦げて失くなってしまうくらいの炎を私は放出。



 快感が全身を包み、恍惚としてしまいそうになる。



「化、物……。これでも、力に溺れてはいないというのか?」

『溺れていないさ。だってこれは元来の、主様の力の助力になっているだけ。ただ本音が、本当の主様が露になっているだけなのだから』



 本音……本当の私……。



 赤の言葉を心の内で復唱しながら、私はこれまでの自分を振り返り……いっそう攻め手を増やしていくのだった。

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