394話【陽葵視点】……わけじゃない
「へ、へへ……。おい!! 誰か俺と矢沢をまとめて拘束しろ!!」
「お、俺も!」
「私もお願いします!!」
私の視線に気付いた探索者たちは大声で命令や懇願を発すると、震えながら笑顔を向けてくれた。
私はそれに感謝しながらも決して足を止めることなく、次の攻撃の準備に入る。
地面に刺さる氷柱を足場に後ろへ跳ねながら、わざと爆発に巻き込まれて吹き飛ばされながら、急いで適度な助走距離を確保、そしてさっきよりも高い威力の攻撃を繰り出すために模倣したスキル『身体強化』で特に脚を集中的に強化。
ボールペンのノックボタンが押し、押し戻されるイメージを持って力を解き放つ。
「今度こそ、殺す……。矢沢彰人ぉおっ!!」
両手でがっちり剣を握って探索者を通じてその身体を突く。
探索者は私が躊躇しないようになのか、声を殺す。
だから私はそれに甘え、見ないフリをして剣を捻る。
「ふぅ、ふぅ……。やった?ううん、殺られてくれないかしら?」
「……。……。……。痛いな。だが、生きている。竜との契約によって、身体が進化しているから……。だから今の俺を倒せるのは同じ竜を宿すもの」
「それは私だって同じよ!」
「ふふふ……。であれば橘陽葵、あなたはもっと竜の力を解放できるはずだ。だがその翼、最初は驚いたが……十分に発揮はできていようだな」
「なにを……。負け惜しみもいいところだわ!」
剣は確かに矢沢を差した。
口からは血が出ている。
それなのにあと一歩、手応えが感じられない。
口では強がって色々と言ってみるけど、今の私の状態を持ってしても恐怖が伝達してしまう。
「う、あああああ!!」
恐怖から仲間を何回も何回も刺して、ダメージを与えてしまう。
その度に人としての感情が奪われるような、罪悪感が消えていく。
自分が人ではなくなっていくような感覚、拡張されたそこにドロッとしたものが溜まっていくような……気持ち悪さが生まれる。
「ふ、ふふふふ……。ほら、あなたは全然利用できていない。飼い慣らせていない。上っ面だけだ。奴らを本当に掌握するには……私のように恐怖で縛り付けて、完全に優位に立つ、或いは並木遥のように圧倒的レベル差を見せつけるしかない。それが……あなたは、実はできていない。一歩、いやもしかすると数十歩足りないのかもしないな。だから並木遥との差も、大きい」
「う、うるさい――」
「あ、うぅ……」
殺したい殺したい殺したい……だけど、仲間を殺したいわけじゃない。
なのに……。
「本当に……殺すつもりは……なかった。ないのに……あれ?なんで?悲しみが……手が止まらない」
仲間の探索者の一人がついに意識を失くし、その手を矢沢から離してしまった。
目は白目を向いて、精気が感じられない。
それを見て、私は言葉とは裏腹に突き刺すことを止めないどころか加速させてしまっていた。




