392話【陽葵視点】狂気
煙の中から姿を現したのは、涼し気な表情を見せる矢沢と探索者たち。
剣や槌、槍や棍は矢沢の持つ剣とその腕によって受け止められ、ギリギリと音を立てている。
衰えなんて言葉を口にしてるけど、その筋肉の膨らみは遥君と比較しても大きく見えるし、探索者たちが咄嗟に武器以外での攻撃を仕掛けても対応してかわしたり、足で払ったりしている。
言ってることとやってることが違いすぎるんじゃないのかしら?
消せないなんて言いながら、当然のように私の気刃十字で切り裂かれているものがない、服とか靴とかが綺麗なままなのもおかしくて……。
「しかもまだろくに魔法もスキルも使っている様子がないのよね……。……。油断している間に、せめて一撃手痛いのをぶち込んであげないと、か。……アカ、その力を少し借りるわよ」
不穏な空気を感じとった私は、次の攻撃の準備に入る。
竜の姿をしたアカを思い浮かべ、そっと目を閉じて集中。
強靭な肉体と鱗……なによりあの大きい、アカご自慢の高速移動を可能にしている翼……。
それらをこの身体に宿す。
そのイメージをさらに膨らませる。
今の私にはそれができるだけの許容量がある。
「うっ……。人の身体だとやっぱり互換性が薄い、けど……。少しなら、もちそうね」
――バサ。
はためく音は小さくて、本当にその効果が活きているのか疑ってしまう。
だから飛び立つ前にそれ、アカから借りた翼に手を伸ばす。
大きさは両手では余るくらい、思ったよりも柔らかくて、でも弾力がある。
例えるならゴムチューブくらいかしら。
鱗も付いてはいるけど、ブヨブヨであまり防御性能が高いとは思えない。
つまり翼で攻撃を受けることはできないってことね。
「それでも……推進力はある。威力が高められるのなら十分」
強めに翼を2、3度動かしただけで身体は浮いて、前進。
これなら普段の数倍は速くなれそうかしら。
「魔法攻撃班は外れてでなんでもいいからとにかく位の高い範囲魔法を!!前衛はとにかく我慢して!!」
「「……了解!!」」
大きな声に驚いたのか、ちょっとだけ間があったけど、探索者の皆は振り返ることもなく大きな返事をしてくれた。
私の指示は意味不明でこれまでの行動からすれば支離滅裂。
それでも既に魔法陣が展開されて、前衛の皆も今度こそは吹っ飛ばされまいと気張ってくれている。
私たちは主に個々での訓練に時間を割いていた。
それでも横や対戦相手として常に仲間が目に入っていて……自然と高め合うことができていた。
それはまるであの時、剣道場で遥君と……慎二もいた、あの時みたいで、こんな時だっていうのに楽しいと思ってしまう。
同時に心の中で無意識の内に抑え込まれていた、制限されていたものが広がっていくのを感じる。
喜び、怒り、悲しみ……それと、もっと強くなって自分を見て欲しい、愛して欲しいという願望とそのための狂気。
「ありがとう、その心意気は結果で返すわ。そして強い私を見て、発信して……遥君に相応しいのは私だって言いふらして頂戴!!」




