391話【陽葵視点】翔駆
「嘘……。あれだけの数、しかも重い武器を扱う人たちがあんな風にだなんて……。当然筋力……ってわかけじゃないわよね」
「筋力もスキルもそれなりに使ってはいる。だが、どちらかと言えば技術。そしてそれらはスキルとして発現したものとはまた別のものであり、長年の努力の賜物。私は仲間たち、それに契約している竜と比べて非力。だから、使い方をより工夫する必要があるのだ」
「くっ……でも、人間には限界があるでしょ。さらにさらに増えた数を一斉に、とりわけ魔法攻撃はそう簡単に弾けないわよ。事実その足には鞭が巻き付いたままなのがいい証拠……皆!私に合わせて!」
「ほう……無闇やたらと、ということではないのか」
「――気刃十文字:翔駆」
スキルを解いてまた新しいスキルを発動。
鞘から剣を抜く居合いのモーション、このスピードを早めることによって十字の傷を作る剣撃は空を駆ける。
威力はそれなりにあると自負できるくらい鍛えたスキルの1つ。
当たれば間違いなくダメージが発生する。
だからそのまま届いて欲しいのが一番、けど……もしそれが不可能になっても無駄にならないような、そんな作戦を私たちは予め用意していた。
「これだけの攻撃が干渉しないか……。なるほど、この十字が指針に……スペースを作ってすらいるのか」
「ええその通りよ。でも、それに気付くのは少し遅過ぎたようね」
先をややゆったりと進む十字とあえて接近して、魔法をしっちゃかめっちゃかにしてやろうと思たんだろうけど、それは愚策。
この十文字が作る4つのスペース、そのどれにどの攻撃を放つか、そしてそこから敵に攻撃をすることを私たちは既に練習済み。
もしそれでも干渉するようであればと、遥君の分配スキル……これの劣化版を合わせることまでしている。
その場しのぎの安直な行動でどうにかできるような連携じゃない。
「思ったよりもやる。それに……この十字、消せそうになさそうだ。ただの魔力の塊というわけじゃないのか」
「元々は体内の魔力を練って斬撃に乗せていただけだったけど、飛ばすとなれば宙を漂う魔力も食っちゃって、他の魔法に干渉する可能性があった。だから強化したこれはスキルの主な力である身体の変化によって増大させた、飛ばし放てるまで膨らんだ気力……それだけによる攻撃にできたってわけ」
「気力……であれば納得した。君はこれだけのものを作れるだけの精神力を持つ強い探索者だったからね――」
まるで私の全部を知ったようなことを話しているのもつかの間、諦めるように強化された気刃十文字を受け止める矢沢は奥歯を噛み締めて、踏ん張っている様子を見せた。
そしてそこに他の探索者による魔法攻撃も到着。
派手に炸裂するそれらが土煙を巻き起こし、それを利用して前衛の探索者たちが突っ込んでいった。
あれだけの攻撃を浴び、普通のモンスターであれば死んでしまってもおかしくはない。
でも相手は矢沢彰人。
地面に倒れるその姿を見るまでは手は抜けない。
ここは私も追撃を――
「くっ、こいつ……なんであれで傷1つないんだよ!」
「いやいや、傷はなくとも消耗はしてしまった。雑魚はスマートに殲滅したかったのだが……。レベルは上がっても衰えは隠せないということかな」




