39話 失禁公開
「――皆、お疲れさん。いやぁそれにしても本当に殆んど2人だけでオロチを、なんてなぁ。しかもその2人のうち1人は噂のレベル100、死んだはずの探索者。もう1人は……」
「これでも私、人間です。昔オロチが30階層に人間を連れてきて……それが私の母だったんです。母は無理矢理オロチとの間に子供を作らせられ、そして生まれたのが私。モンスターと人間の間に生まれた私ですが、そんな父、オロチのことは心底憎んでいて、それどころかモンスター全てが嫌いなりました。見た目にモンスターらしいところはありますが、心は、人間です」
「す、すまん。姿関係なく、あんたは間違いなくオロチ殺しをなしえた1人。この事実が伝われば他の人間だって受け入れてくれるはずだ」
荒れる陽葵さんを宥め、しばらくすると討伐隊の人たちが駆けつけてきてくれた。
そして……作戦は成功。
討伐隊のリーダーはすっかりハチを受け入れてくれている。
やっぱり戦う役を俺1人にしなくてよかった。
きっと単純に折角命を救った相手なんだから、とか、俺がハチに面識がある、とか、そんなものだけじゃ、ハチをダンジョン街に連れていくのは難しかった。
多くの人間の頭にはしてもらったことに対して報いなければならない、という文化が刻み込まれている。
つまり、この作戦では人間を攻略するためにわざと恩を売ってやったというわけだ。
まぁハチはそれに加えてお情けまで使おうとしているが……。
「それでこいつの処理はどうする? もし、面倒だって思うんなら探索者協会に俺から連絡して、更正施設に連れてくが……」
「そうですね……。取りあえずそれでお願いします。慰謝料の請求やなんかは、彼女たちに任せておけば大丈夫だと思いますし……」
ギラギラと鋭く慎二に目を向ける女性陣たち。
金銭的な罰は期待以上のものが課せられそうな気がする。
それに更正施設はスキルを悪用した探索者が、ぶちこまれる施設だけあってそこでの生活は刑務所と比較にならないほど苦痛らしいし、あと俺が慎二にしてやれそうな復讐は……
「あの」
「な、何ですか突然?」
唯一スマホ等を持ち込めるという、この女性を介して行ってやろう。
「よかったもう緊張はしていないみたいですね。それでなんですけど、今回あなたがまとめた報告文や、音声、映像データ、それに魅了された人たちの証言をネット公開しませんか?」
「え……。でも、流石にそれは可哀想な気が……。あの人いつかは更正施設を出るんですよ」
「自業自得ですから可哀想に思わなくて大丈夫です。それに探索者であれば、就職活動をする必要もないですし、これきっかけで死ぬことはありません。そんなことよりも、スキルを悪用した人物がどうなってしまうのか、データを晒すことで俺やハチに畏怖して、同じような事件を起こす人は減るんじゃないでしょうか 」
「それはつまり、あなたたちがスキル犯罪の抑止力になる、と」
「そうなってくれればいいなと思います。勿論探索者の活動があるので犯罪撲滅活動等々はできませんが、他人が動画を出しただけなら、それをする義務を受けることはないですよね」
「それは、多分。……はぁそれでは一旦上に持ち帰って相談してみます」
「相談……。ダンジョンにスマホ等を持ち込む許可をもらえるような人ならそんな相談はいらないんじゃないですか?」
「……。強いだけじゃなくて、気付きもいいみたいですね。分かりました、仕事は増えますが、あなたの言う通りネットに公開……SNS上にまとめ動画をアップロードしておきます。全く……面倒を増やしたんですから、今後協会から何か依頼されても断らないでくださいね」
「ありがとうございます。それと、分かりました。その時のためにお名前お伺いしてもよろしいですか?」
「私は京極彩佳です。それよりもいいんですか、あまり私と話していると後ろの2人の皺が増えますよ」
慎二の社会的復讐に心踊らせていると、ハチと陽葵さんが何か不服そうな顔で俺を見てくるのだった。
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