388話【宮平視点】覚悟
「あ、あ……う、ぐ……」
「お母さん……。今楽にしてあげるからね」
苦しむリンドヴルムの前に到着した京極さんはそっと剣を持ち上げる。
俺はそんな京極さんの、その目だけに意識を集中させてできるだけリンドヴルムをリンドヴルムではない形状に見えないよう誤解スキルを使う。
人の気持ち、精神を誤解させることは今の俺だと限界がある。
それに対象が京極さんとなれば耐性が高い可能性もある。
だからこれが最善。
京極さんがお母さんをスムーズに殺すための、最善……。
一緒に罪を背負うって、言葉の何倍もキツいな。
「――あ、あああああああ……」
「ん……」
剣を振り下ろそうとする京極さんにリンドヴルムは力なく抱きつく。
これには京極さんも戸惑いを見せるが……俺は容赦なくスキルの効果が強くなるよう力を込める。
俺が悪者として扱われることで、京極さんが当たる相手ができる。
そう思えば……まぁ、頑張れなくもな――。
――ばん。
「え?」
「京極さん!?」
京極さんの戸惑っていた手が震えて数秒後、リンドヴルムはさっきまでとは反対に京極さんを思い切り突き飛ばした。
もしかして逃げるつもりか?
そりゃあ殺されるのは嫌……いや、それよりも契約者である会長が危機にひんした場合に予め逃げるよう命令をしていたからか?
それとも、鞍への抵抗を力を会長が緩めた?
リンドヴルムの、こちらの正確な状況把握ができるようになったのか?
ちっ、何はともあれ結局のところ鞍を攻略できても会長がいるままだともう長くは……。
「う、あ……。なんで……鞍への抵抗が……難しく……。ふ、ふふ……。でも、最後に……この手にあなたの温もりを、感じられた。大きくなった、のね」
「お母、さん」
「殺して……。早く……。もう苦しくて……。これ以上娘に、皆さんに迷惑をかけるくらいなら……もし夫、お父さんが生きてても同じ選択を、したと思うから」
リンドヴルムは両手を広げて優しく微笑んだ。
どうやら京極さんを突っぱねたのは、逃げるためじゃなくて動揺を誘う行動をとらないようにするためだったらしい。
殺す覚悟と殺される覚悟……。
残酷で美しい親子愛、か。
きっとこんな光景も地上の奴らからすれば酒の肴でしかない。
そう思うと、イライラが込み上げて胸くそが悪くなる。
それで俺は、なんでこの手伝いをすることしかできないのか……。
「宮平君……だったかしら? 君も……ごめん、ね。……。……。……。さ、早く、その剣で……」
俺の様子に気付いたのか、リンドヴルムは視線を俺に向けてまた笑った。
そしてそれを合図に京極さんは大きく剣を振り上げた。
「う、あああああああああああああ!!」
「ごめんね……ありがとう。愛してるわ――」
雄叫びを上げながら振り下ろされる剣。
それをリンドヴルムは目を瞑って受け止めようとする。
しかし……。
――バリン、キィン。
「――間に合った……。まったく、これだから低階層の竜は……。自分の状態を確認することも満足にできないなんて……。優秀なのはその綺麗な見た目だけなのかな?」
遥君によって分断、それにしても伴って作られていた強固が割れ、2人の間には小さくも強大な力の持ち主が割って入った。




