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387【宮平視点】一歩

「マジか……。どんな遺物だろうがたかだか鞍の精神、でも……身体は気高いどこまでも気高い竜。いやはや、流石京極さんのお母さんだけあるって褒めたほうがいいですかね」



 無理矢理口の端を持ち上げて、あえて皆が動揺しないよういつもの軽い口調で言ってのける。


 ただ流石に無理があったのか、自分でも上手く笑えてないのが分かってしまう。


 本当の苦笑いってこんな風にして作られるんだな。



「う、ああ……」

「もってくれよ、俺の身体。そんでもって、もたないでくれよ、竜の身体。……。動けそうな奴だけでいい!! 俺に続ける奴は――」

「待ってください!!」



 なんとか辺りにいる探索者たちを引っ張ってもう一回戦場に赴こうとすると、京極さんの大きな声が風に乗って耳の内に入ってきた。


 風によるこそばゆさもあってか、俺も含めて動き出そうとした探索者たちは一瞬動きを止め、話すこともできなくなる。


 そしてその静かになった時間を使って京極さんは続けて俺たちに言い聞かせてくれる。



「風の匂いが、向きが……今までと全然違います。柔らかくて、懐かしくて……ほら、殺気を感じないでしょ?」

「……た、確かに」



 リンドヴルムの声は低くて聞こえ方は敵側のものにしか思えなかったけど、少し前までの鋭い目つきは消えていた。


 よくよく表情と合わせて声を聞くと、助けを呼んでいるようにも見える。



 ということは……。



「完全に消えたってことですか? あの鞍は」

「いきなり消化したとは思えないので……今は押さえ込めた、という程度だと思います。それで、私も本当はお母さんの治療に向かいたいんですけど、それをすると最悪の場合……。だから皆さんもお母さんが完全に鞍を消すまで、治療も攻撃もしないでください」



 京極さんの言葉に探索者たちや一族の連中は顔を見合わせた後、すぐさまそれぞれの持ち場に戻っていった。


 今の戦いを通じて京極さんへの信頼度が高まったことがよく分かる。


 まぁそうでなくとも残ってる力だけでリンドヴルムに干渉するのは避けたいってのがあるんだろうけど。



「……ふぅ。宮平さんもお父さんのところへ。私はお母さんにを見張ってますから」

「……。……。……。いや、俺ももう少し『協力』させてもらいます」

「え?で、でもほら殺気はなくて……」

「今にも息ができなくなりそうですよね。すごく苦しそうで、これならいっそ死んでしまったほうが楽に見えるくらい」

「!?」



 不謹慎すぎる言葉を吐いた。


 反論どころか怒鳴られることすら覚悟した言葉だ。


 だけど、京極さんは驚いただけで怒る様子はない。

 それどころか、少し笑って誤魔化そうとする。


 あくまで僅かな可能性を探るためだったんだけど……図星かぁ。



「今は大丈夫でも今後消すことは……体内から鞍を出すのはもう不可能。それならいっそ自分の手で……ですよね?」

「……。誰かに殺されるくらいなら、私が今のうちに……。お母さんもそっちの方がまだ救われるかなって……。あはは、勝手な妄想ですけどね」



 無理矢理笑う京極さん。


 取り繕う姿は痛々しすぎて、聞いたことを後悔してしまいそうになる。


 でも……。



「やっぱり聞いて良かった」

「え?」

「1人より2人のほうがまだ罪悪感はないと思いますから。あ、俺ならリンドヴルムと面識もあって他の連中よりも理解はしてもらえ……るかどうかは分からないですけど、まだマシだと思うですよね。それに……最後の戸惑いを俺なら誤魔化せます」

「……ありがとうございます。そこが、そこだけがどうしても不安だったから……宮平さんがいてくれて、本当に良かった」



 最悪の申し出に京極さんは嬉しそうで悲しい表情を見せると、俺の腰から剣を抜くと、一歩また一歩とリンドヴルムに近寄っていった。

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