386話【宮平視点】達成
「くっ……。こんな時に……このメスがあああああああああああ!!」
何度も何度も必死にはためかせていた翼に、ぎこちない動きが見られるようになり、段々とゆっくりに。
当然その状態でその場に止まることができなかったリンドヴルムは……鞍は、厳かな雰囲気を微塵も感じさせない小物臭丸出しの叫び声をあげた。
そして次の瞬間、ようやくその身体は大きく、速くぶっ飛んで思いっきり壁にぶつかっていった。
フロア全体が揺れるんじゃないかってくらいの衝撃と衝撃音、それでもまだ意識があるのか、鞍は目を見開かせる。
そもそもこの光線状の竜の息吹きを受けて外皮を削られるだけの身体だ、意識まで飛ばすのは難しい。
とはいえ……タフすぎるだろ。
「が……あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
そんな光景を目の当たりにした京極さんは、これを最後だと思い、攻撃を繰り出しながら声にならない声……最早『音』としか言い表せないようなそれを吐き出し、さらに加速装置として機能しているであろう風の膜を1つ増やした。
「くっそ……。痛みで、もう……」
勢いを増す息吹き、それによって壁はリンドヴルムの身体と共に凹み……ついにその目は白くひんむかれた。
攻撃も止んで、辺りには静寂が訪れる。
「――すぅ……。……。……。ぷっはぁぁぁあぁぁあっ!!」
ズルズルと壁を伝って地面に落ちるリンドヴルムの身体。
だがそうしてリンドヴルムが落ちた音よりも京極さんの深呼吸のほうが大きくフロア内に響き渡った。
まるで仕事終わりで生ビールを一気に飲み干したサラリーマンみたいな声……あまりにもおっさんすぎて少し笑えてくる。
「ま、そうなるだけの仕事だったわけだから仕方ないか。……お疲れ様です、京極さん」
「はい! 宮平さんも……皆さんもお疲れ様です。……。すぅ……。これにて私たちの仕事は完了、依頼達成です!」
俺が労うと、京極さんはいつもの調子で手を前で重ねて一礼、他の連中にも一礼をすると、握り拳を高々と掲げて依頼達成の報告をした。
いつもの京極さんらしからぬ大声に一瞬きょとんとしてしまった一同だったけれど、だんだん敵を倒した実感が湧いてきたのか、笑い声や嬉し涙を浮かべ、遅れながら全員が拳を高く突き上げ……。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
高らかに勝利の雄叫びを上げた。
途端に辺りは宴ムード、なんだなんだこいつら結構元気じゃないか。
「――宮平さん、その腕……」
「ああ、これは仕方ないですよ。なんというかある意味で勲章みたいなもんです」
「でも直ぐに治療を……。あの!回復魔法をかけられる人がいれば――」
「俺よりも親父を頼みます!まだ生きているはずなので!」
歓喜と同時にポツポツと辺りでは治療行為が見られ始め、京極さんも俺の身体を気遣ってくれた。
だけど、止血も取りあえずなんとかなっている俺よりもまずいのは親父だ。
外傷はもちろんのこと、身体の変化に伴う反動でどうなってしまうか……。
「親父――」
「う、あああ……」
よろよろと俺も親父のもとに向かおうとした、その時。
倒れていたはずのリンドヴルムの口から呻き声が漏れたのだった。




