385話【宮平視点】自由の声
「あとは……お任せします」
俺は自分の役目を全うしたことで気が抜け、一気に脱力してしまう。
血は止まっているし、切断面も塞ぐことが出来ていて……そこから細菌やらなにやらが入り込むことは恐らくないとは思う。
まさか、自分がこんなことを躊躇いもなく実行するなんて……熱血感とか戦闘狂とか、そういった類いとは反対の人間だと思っていたんだけどね。
少しずつうつっていったのかな?
これはこれで悪い気分はしないかも。
「ま、それも全部結果しだいなんだけど……」
気が抜けて側にいる京極さんに軽くもたれる。
触れている仮の腕に感触はないものの、凄まじい威力の攻撃からなる振動が伝わり、京極さんの必死さまで伝わる。
京極さんが俺の偽物がこちら側にないことを確認できたのもこうして身体が触れあったから。
偽の腕の、本物とは違う異常な柔らかさと温さに、京極さんは言葉をかけることをしなくとも俺の状況を察して攻撃を仕掛けてくれた。
早急な対応は流石敏腕受付嬢ってからかいたくなるくらいだった。
実際それが作用してリンドヴルムに気付くきっかけや猶予を与えなかったのは本当に大きい。
だって防御スキルや魔法の展開はおろか、それを受ける体勢すらまともにとれていないんだから。
「――う、おおおおおおっ!!」
可憐な見た目のリンドヴルムから吐き出される野太い声。
一応渦巻きながらも光線のように吐き出された京極さんの攻撃に腕を回して、受け止めているように見えなくもないが、顔は歪み服は破け、皮膚や鱗も剥がれて徐々に後退していく。
一気に吹っ飛ぶことがないのは尻尾を地面に刺しているからだけど、脚の踏ん張りはもうほとんど利いていない。
「もう少しで勝てる」
「う、あ……」
残った手でぐっと握り拳をつくる。
するともう勝てると思った俺の横で小さく呻き声が聞こえてきた。
萎む身体と青くなる顔。
優勢に見える光景から、その懸念がすっかり頭から抜けていた。
そうだ、これだけの魔力消費と吐き出すばかりの息……長々と攻撃を繰り出す京極さんが辛くないわけがない。
「俺の魔力も……」
「うう……」
残りかすの魔力を集中させて京極さんに譲渡しようとするが、専用のスキルを用いてないこともあってか、あまり効果が見られない。
ここまできて仕留めきれないなんて、あったゃいけない。
「……向こうに俺の腕はまだある、よな。なら……」
仮の腕を伸ばして意識を集中させる残りの魔力でこれだけ離れた場時のものを『誤解』させるのは難しい。
だけど、ちょっと前まで俺であったもの、その腕がそこにあってくれるのであれば……ちょっとくらい融通が利いてもいいよな?
「なっ!?」
「よし!!」
尻尾の突き刺さった地面、そこを軟化させることに成功。
リンドヴルムは身体をよろめかせた。
焦った声と共に壁際まで吹っ飛んだ、と思ったが……。
「ま、まだ……」
リンドヴルムの身体に翼が顕現され、はためく。
この時間がそんな対応を可能にしてしまったらしい。
絶望感が押し寄せ、悔しさで奥歯を噛み締めようとした、その時……。
『やっと、少し自由が……』
俺たちの頭の中に待ちに待った優しい母親の声が響いてくれた。




