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384話【宮平視点】風竜の息吹

「お前……今なんと言った? この我を、これから先全てを統べる存在を……便利な道具、だと?……いや、そんなことはこの際どうでもいい。おい女、正気か?それを放てば間違いなく仲間が死ぬぞ」



 強風で髪がなびき、服がバサバサと音をたてる。


 そんな風の中心である京極さんは、いつの間にかその口を竜のそれに変え、その上口の中に黒い渦を発生させていた。


 見ているだけでのみこまれそうになるそれは、仲間だってのに危機感で鳥肌がたってしまうほどの迫力。


 これが、親父たちが稼いだ時間の結晶。



「ま、待て!もう一度よくこいつを見ろ!血だらけのこいつにそれが耐えられるわけがな――」



 俺の身体を盾にしながら逃げるのではなく、必死に状況を説明するリンドヴルム。


 だが、それをむしろ好機とばかりに京極さんは口のそれを解放させていく。


 直線上に配置されていく薄い膜のような層。


 それからは魔法陣に似た気配が感じられ、同時にその付近で強い風の流れが発生していることもわかった。


 恐らくこれは、これから発射される攻撃の速さを高めるための装置として機能するんだろうな。



 にしては禍々しすぎる見た目だけど……リンドヴルムの行動を停止させるだけで済むのかな?



「馬鹿な! なんで躊躇いがない!! こいつはお前の……って、あれ?そういやこいつ全然喋らねえ……。恐怖……いや、にしても大人しすぎる。……だが、この腕は間違いなく本物――」



「――ああ。本物だよ。その腕は、ね」



 京極さんの口から黒い渦が溢れ、やってることとは反対に可愛らしく行われたウィンクを合図に俺は本日2度目の種明かしをする。



 そう、リンドヴルムが掴まえている腕は確かに本物。


 その血もあの時破れた服も本物。


 だけど、それだけ。

 それ以外は全部偽物。


 本物の俺は京極さんとぶつかったそれで……片腕は切断された。


 便利なスキルのお陰で止血も仮の服や腕を作ることも出来はしたけど……俺の腕はもうない。


 痛みは誤魔化しきれない部分があるし、ショックもないわけじゃない。

 でも斬られたあと、まだ繋がっていた腕を切り口から完全に引き離したのは俺自身。


 リンドヴルムにあたるつもりなんて当然ないし、だからこそ今はこの作戦を成功させたい気持ちが強くて……いいや、それ以上にこんなことをするなんて驚いただろって、自慢してやりたい気持ちが何よりも大きくなった。



 親父と苺にも俺のお陰で勝ったんだ、って言ってやりたし、その反応が今からドキドキでさ……楽しみが全部飲み込んでくれたんだよな。



「馬鹿な……。たかだか人間が……そのまま偽物として殺される可能性だってあったのに」

「こっちの手札を知ってて、絶対反応してくれるって、先に偽物を捕まえてくれるって分かってた。優秀だからな、お前は人間よりも」

「く、そ……」



 俺の偽物を未だ盾にしたままリンドヴルムは京極さんの口から吹き出す風、渦巻く息吹きを呆然と眺め……立ち尽くした。

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