383話【宮平視点】本物偽物
「なっ!?」
「その腕! 出欠量! それに……この温もり!」
リンドヴルムは背後から接近する俺にいち早く気付くだけでなく、その尻尾を腕に絡ませて嬉しそうに声をあげた。
力は竜の状態と比べて弱まっているから、このまま絞め殺される、或いは腕を引きちぎられるということはなさそうだけど、こちらから攻撃を繰り出すだけの自由は確保できそうにない。
それを分かってか、リンドヴルムには表情だけでなく身振りにも余裕が見える。
「本物はこっちか! くはははっ! あの短い時間で精巧な偽物を作り、さらには背後まで移動するのは中々出来ることではない! きっとお前は優れた人間なのだろう! だが人間というのは窮地に弱く、精神が脆い。跨がってきた連中は押されていると分かるや否やすぐに動揺で震え、身を翻し、果ては失禁……。その程度の生き物でしかないのだ!であるからして、餌として利用されるべき! さぁ、無駄な抵抗は止めて偽物も仕舞え。魔力の消費と出血でお前の身体はもう……」
腕を掴みながら饒舌に語っていたリンドヴルム。
しかしそれを黙って聞いてやるほど俺だって馬鹿じゃない。
「……」
「こうなっても偽物を操ることはできる、か。使用者の状態が影響するスキルだと思っていたが、関係ないのか?まったく、スキルというものの理解はまだまだらしい」
掴まれたままの俺とは別の、京極さん側にいたはずの自分はリンドヴルムとの距離を詰め、剣を振り下ろした。
だけどそれさえも完全に読まれ、簡単にかわされた上に今度は首根っこを掴まれ投げ飛ばされてしまう。
そのまま京極さんとぶつかり、自分は地面に横たわる。
「この程度では消えない、か。スキルのレベルが高い……それだけに勿体ない。宝の持ち腐れ。奴らがスキルイーターというモンスターたちを作りたくなる気持ちも分からんくはないな。それに……竜を手中に収めたくなるのも。……なぜなら雑種でそれだけの力を保有できるのだからな」
そんな自分たちに対してリンドヴルムは掴んだもう一人の自分を盾にしながら京極さんを見る。
どうやらリンドヴルムは自分を人質にして、京極さんに攻撃を止めるよう交渉を仕掛けるつもりらしい。
うん。
この流れは大体想像通り。
いくらリンドヴルムといえど、この状態の京極さんを見て脅威に感じないわけがないからな。
万が一のことも考えて早めに処理をしたいと思うのが普通さ。
「それを放てばこの男の本物を、お前が殺すことになる。結局喰ってしまうのだから変わらんが……人間の血が混ざっている奴にそれは出来んはずだ。さぁ、溜め込んだものを霧散させろ。そうすればお前だけはしばらく生かしてやらんこともな――」
――ひゅう。
優位にたち、のうのうと京極さんに近づきながら交渉を試みるその口が、顔が途端にひきつった。
「ふふ……」
その顔につい笑いが溢れる。
隙を作るってのは別に物理的なもの……拘束するだけとは限らない。
油断、それさえ引き出せれば俺の役目完了で、あとは仲間に伝達できればok。
ある程度思い描いた通りにはなったけど、まさか京極さんの元までわざわざ投げ飛ばしてくれるなんて……。
「いやぁ、流石は便利道具!こっちの手間を1つ省いてくれるのは予想外だったよ!」




