381話【宮平視点】第二
勝手に拳が固くなっていく。
どちらかと言えば冷静というか、感情に流されないほうな気がしていたんだけど……こうして宮平家との距離がまた近づいたからかな、イライラして熱くなってるのが分かるよ。
「でも、今の敵はリンドヴルム……。京極さんは……」
「……」
服が弾けんばかりに膨れた京極さん。
それでもあと少しだけ、と言いたげにジェスチャーを送ってくる。
何かマスコットキャラクターみたいな愛嬌を感じるけど、眉間に皺を寄せている様子から京極さんも憤りを感じているのだろう。
「――う、おお……。……。……。なっ!?」
親父の耳は伸びたまま、どことなく神性を纏っている気がしてしまうその姿でリンドヴルムの竜巻を両手で受け止める。
だがそんな永遠と思えるくらい長い攻防は、一瞬のうちに終わりを告げた。
――ぶち。
触れられるていることを嫌うように竜巻は急激に小さくなり、それに反応しきれなかった親父は不意を突かれて身体をよろめかせる。
しかも威力が緩んだと思い力が抜けたのか、或いは何かしらの防御スキルか、誤解による肉体の強化なのか……とにかくそれらが崩壊。
小さくなった竜巻は親父の腹の真ん中を局所的に抉り、食い破った。
肉が引きちぎれる音が俺の元まで届き、親父は膝から地面に落ちていった。
あの攻撃を受け止めたときからこうなることは想像できた。
だから自分の仕事を全うするために駆け寄ることはしない。
でも臆することなく踏み出して、あの攻撃を抑え込んだその誇り高い姿に……少しだけ涙を溢すのは許されるよな?
「くっ……。親、父……。その死体、あとで丁重に葬ってやるからな。ってすごい、見にくい……」
竜巻は消えたけど、尚も吹き続く風とそれに運ばれる塵が目に入ってしみる。
棘によって作られた壁は消えているけど、巻き上げられた土埃でより視界は悪い。
だから俺たちがそこにいる人に気付くまで、かなりの時間を要してしまった。
「葬ってやる、か……。まだ生きてるみたいだぞ、この男は。ただ、魔力の流れが狂ってるな。こんなのはこの世に長く居着いている自分でも見たことがない。……あの人間共がこれを見たらさぞかし喜ぶだろう。あれはこの研究に没頭し、執着していたからな。私利私欲に流され、金をはたき、仲間を売り……それはまるで悪魔のようだった」
「お前……その姿は」
「竜は人として活動が可能。ただしこの身体の場合は大分貧弱になってしまうようでな、折角こうして運動できるというのに興醒めしてしまうよ。それに……内側の奴への抵抗力も弱まってしまう。だからこそ……肉体の強度、魔力の補充、これらのためにお前たちは食さなければならない。支配してやる喜びも捨てがたくはあったがな」
豊満な胸とスラッと伸びたモデルのような肉体美、そしてそれを台無しにしてくれる悪に満ちた笑い顔。
その足は俺たちの元までゆっくりと迫ってくる。
流れる汗と漂う緊張感、第2ラウンドの開始に嫌気がさしそうになる。
だけど……。
「ん!」
「……。そうですか、耐久戦はもう終わりですか。良かった。じゃああとはそれをぶち込めるよう、今度こそ俺が出ます」
京極さんが出してくれたokサインが、俺の募らせたやる気を解放させてくれた。




