38話 殺意
「お、おい……。もしかしてお前、俺を殺す気か?」
「さぁ、どうだろうな」
俺は首の近くに差し向けられている水の剣を少しだけ動かして、その表面を傷つけた。
すると血がゆっくりと流れ始め、首に赤い線を描く。
慎二は今の俺の挙動で殺されると思ったのだろう。
気が抜けたように腰を地面に下ろすと、情けなく失禁。
白目を向きながら天を仰いだ。
本当に殺してしまう気なんてこれっぽっちもなかったが……慎二は俺のはったりを真に受けてしまったようだ。
「俺を殺した罪がこの程度で許されるわけじゃないが……。ちょっとだけすっきりした、かな」
『終わったみたいね。なんか思ったより呆気なくて、私としては物足りないわね』
『あんなに派手に魔法を使ってたじゃないか』
『派手って言っても全力じゃないのよねえ。いっそのことその男を木っ端微塵にする?』
『いや、こいつにはもっと相応しい、人間らしい罰を――』
「幸村慎二、スキルで女たちを籠絡していた。並木遥の殺害を否定しない。謎の女性と並木遥によってオロチ撃破、その後幸村慎二は並木遥に詰め寄られ、失禁、失神……っと。音声もちゃんととったし、そのうち討伐隊のみんなも引き返し始め……。あっ!あの私怪しい人間じゃないですよ!これはただ報告役として、ちょっと業務連絡をしていただけですから」
ハチと慎二の今後の処理を考えていると、唯一見覚えのない女性が慌てた様子で何か言い訳を始めた。
そんなことをしなくても、基本奪われたことによって人間が不利になる可能性があるものを、ダンジョンに持ち込めている時点で、その報告役というのが探索者協会にも認可された立派な役だと分かるのだが。
「あの、怖がらなくても何もしませんよ。別にモンスターに食われていたからってモンスターになったわけじゃないので」
「そ、それは、はい。分かってますでおりますです」
おりますです?
何かこの人緊張で言葉がおかしくなってるけど、大丈夫か?
変な内容の報告とかされてなければいいけど。
「それにしてもどうしたものかな、これ」
「持ち帰ってすぐ探索者協会に報告。それと危険人物だから、討伐隊の人たち……念のため男性を呼んで手伝ってもらいましょう。連絡お願いできるかしら?」
いつの間にか俺の元まで近づいていた陽葵さんは、いつものクールな表情に戻っていた。
やっぱりこの凛とした姿こそ陽葵さん――
「連絡しますが、一応魅了の危険度というのも伝えたくてですね。あの、お疲れのところ申し訳ないんですけど、具体的にどんな仕打ちを受けたか教えて頂きたいのですが……」
「それは……」
「痴漢」
「性的暴行」
「私は子供をおろせって言われて……」
戦闘でのびていたはずの女性たちが、その鬱憤を晴らすように慎二の恥態を暴露し始めた。
慎二……お前、最悪だよ。
「こっちの女性なんか派手な赤い下着で土下座。しかもほぼ毎晩――」
「ちょ、それ以上は止めてください! 男の人だっているんですよ!」
陽葵さんに土下座を……やっぱり殺してやろうかな、こいつ。
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