379話【宮平視点】竜巻
「親父? なんで、そっちに……殺されるぞ!!」
「……『誤解』。攻撃対象、発動主が自分単体……は無理、か。だとすれば……この小範囲を根源と誤解。またその地、空にも自身が根源だと誤解させ、その誇りを示させる」
「おい! 聞いて――」
「仮にも一族の現代表としての務めだ。また卑怯なりにもここまで宮平家を存続させてきた、これはそんな唯一の誇りを維持するために必要なこと。お前にとってはあり得ない理由だと感じるかもしれない。だが、俺にとって……ここで戦うことを決め、今日まで準備をしてきた俺たちにとってはこれ以上ない理由なんだよ」
もう振り返ることもしない親父の背中は今まで見てきたどの瞬間よりも大きく見えた。
あんなに嫌いで、反吐が出ると感じていた宮平家の誇りって言葉が今だけは妙に格好が良い。
神宮や会長を含める地上の人間たちによる差別と洗脳。
それに乗っかってダンジョン街での地位を磐石なものにした宮平一族。
この数ヶ月間で、改めてその事実を受け止め、宮平家のものは俺や協会の要請がなくとも個々で協力をするようになった。
地位に甘えず、コロシアムでレベル上げに励むものも現れた。
そしてその変化は親父も例外ではなく……もしかしたら親父を筆頭に変わっていったのかもしれない。
……いや、それは微妙に違うか。
「はぁ……。反省できるのはいいことだけどさ、頑固なところも、勝手に決めるところも……良い意味も悪い意味も含めて『変わっていない』な。お父さん」
「……お前と違って俺たちにはこれしかないからな。それと急に呼び方を変えるな。別に俺は死ぬつもりなんてない――」
――ぶおっ。
俺たちの会話を遮るように、ついに突風が襲いかかってきた。
誤解による白いそれと、小石や塵が全身に当たって気持ちが悪い。
ただそれでも京極さんは目を開けたまま空気を吸い込み続けているから、俺も手を休めはしない。
「あれが、スキルをぶっ飛ばしてくれる攻撃……」
「相手にとって不足なしだ」
そんな中、眼前に現れたのは天井に当たり、さらには跳ね返り荒れ狂う何本もの竜巻。
そいつは時間が経つにつれ、色んなものを巻き込み、色づきながら大きくなっていく。
がりがりと音を立てながら地面を削り、棘をも削る。
しかも跳ね返る性質があるからか、何度もぶつかり永遠にそれを続け……でかくなる。成長する。
――パ、キ。
そうして巨大な竜巻は互いにもぶつかり合って1つの塊へと姿を変えるととうとう俺たち側にある棘を折った。
おそらくこの変化を繰り返す性質と成長する性質が誤解の効果を薄れさせ、対応できなくしているのだろう。
ま、理由はそれだけでもなさそうだけど……。
「くっ……。来い!!」
完全にこちらの防御を突破してしまった竜巻、その尖端は竜の顔を模していて、まるでリンドヴルム本人がそのまま襲ってくるよう。
風切り音は鳴き声に聞こえ、渦巻く身体は爪や牙くらい……いや、それ以上の殺傷能力があるだろう。
そしてそんな竜巻は吸い込まれるように、魅了されるかのように親父を食い殺そうと勢いよく伸びていった。




