376話【宮平視点】実行
「京極さん、大丈夫ですか? その……身体痛みますよね?あんまり得意じゃないんですけど、ないよりはマシだと思うので回復魔法を……」
「大丈夫です。私の身体は勝手に治っていきますから。だから宮平さんは魔力の温存をしておいてください」
「それは……親父たちの拘束もリンドヴルムには効かない、そういうことですか?」
俺が訪ねると、京極さんは俯いて少し黙った。
こんな時ばっかり勘がいいのはよして欲しい――
「効かない、とは違います。ただちょっとだけ回復が早かったり、払うのが早いだけで」
「それって効かないとほとんど同じじゃないんですか?」
「全く異なります。でなければ私は宮平家の皆さんを止めようとしたはずですよね?」
「それは……確かに」
やけに長い間を空けた京極さんは、口を開くとさっきまでとは違って瞳に力を漲らせて俺の言葉を否定した。
乗っ取られた母親を前にポジティブな気持ちを維持しようとしているのだろう。
力もだけど、この人は気持ちも強いな。
「3分くらい……多分もってそれだけ。でもそれは、大きな違い。宮平さん、さっき私に1度下がって攻撃の準備をって言いましたよね?」
「言いましたけど、まさかそんな短いなんて思いもしなくてですね……。しかもあの時はその怪我もなかったわけで……。ダメもとで今度は俺が――」
「はい! 今度は宮平さんがお願いします!」
リンドヴルムが鞍を消し去るまでどれくらいかかるかは分からない。
それでも俺が防御壁の役割を担うと言いきろうとしたとき、思いがけず京極さんが言葉を被せてきた。
しかもかなり乗り気で。
こんなにのほほんとした上品し溢れる顔だけど、やっぱりドSの素養があったかぁ……。
「はい。ボロボロになるまで、ギリギリまで耐えて見せます。なよなよっとしてるかもですけどいざとなれば……」
「ということでスキル『誤解』の準備を今度は宮平さんがお願いします。対象は私で、そうですね……内容は攻撃力が高い……じゃなくて、もっと『誤解』の効果が活かせるように、どこまでも膨らませることができる、なんてどうでしょう?」
俺の言葉なんて無視で勝手に話を進め出す京極さん。
その早口と圧で俺はついつい呆気にとられてしまう。
「あのぅ……。良い案だったと思うんですけど……。駄目、でした?」
「いや、悪いなんて全然……でも、そのちょっと意外で」
「私が皆さんを信じて守りに徹するという選択をしないこと……確かに意外だと思います。自分でもビックリするくらい。でも、さっき宮平さんが私を信じて頼ってくれた。それに攻撃の準備をって言ってくれて、多分宮平さんのお父様も私を、頼って信じてくれているからこそ出し惜しみなく戦えている……そんな気がして。あはは、勝手な妄想で恥ずかしいですね」
「……いえ、少なくとも俺は信じてます、頼ってます。自分が情けなく思えるくらい」
「宮平さん……」
「これだけ血を流させて、うだうだ言って……男なら黙って要望に答える。って苺に叱られそうです」
「それは……想像できますね。簡単に」
「はい。というわけで、京極さんの案を早速実行しましょう全力で、全速力で!」




