374話【宮平視点】鎌鼬
「か、鎌鼬……。しかも、これだけの小ささ……コントロールで?私には到底出来ない芸当です」
攻撃がかすった頬にそっと手を当てると、さらっとした血が手につき、冷や汗が流れた。
攻撃は運良く外れた、その程度の攻撃と新米探索者は思うかもしれない。
でも、京極さんが言ったように俺を殺さないだけのダメージを的確に与えたというのは、相当なコントロールを有しているともとれて……実際俺の直感がずっとヤバいって訴えかけてきている。
「悠長にしてる場合じゃない、2人とも急いで!!」
「あ、ああ!」
「はい!でもしんがりは私が請け負います! 多分、あれはわざと受けてあげたほうがいいと思うので!」
俺の生み出せる盾、それを動きながら利用するとなると範囲は限られる。
そうなればあの『鎌鼬』?はそれを避けてくると考えられるのが普通。
であれば安全に逃げるためには、それを受ける囮のような存在がいる……。
そんな危険な役目を京極さんに負わせることに罪悪感がないわけじゃないけど、今はそれが最良の選択肢なのだろう。
というのもあの攻撃を見て京極さんは感心したような顔は見せたけど、俺たちと違って恐怖を感じとった顔はしていないから。
「――『流風』」
勢い良く走る俺たちは追いながら京極さんは後ろを見て、ふっと息を吐いた。
途端に俺たちの周りに優しい風が吹き、冷たさを感じられるようになる。
――ひゅん。ひゅんひゅん。
そんな心地よい風を受けていると、リンドヴルムがまた鎌鼬を放ったのだろう。
強く風を切る音が聞こえ、近づき始めた。
しかもそれは複数。
威力としてはあまり高くないが、それでも全て当たれば俺の身体なんて簡単にバラバラだろう。
恐怖心で咄嗟に脚を止めそうになり、ついでに少し振り返ってしまう。
すると、京極さんのにっこりと笑う顔が見え、そして気付けば風切り音は消えていた。
「おい、仲間を信じてまっすぐ走れ!」
「……い、言われなくても!」
親父に背中をつつかれ、俺は視線を正面に向けて全速力で駆け出した。
――ひゅん。
新しく、次々と生まれる風切り音。
その数は次第に増え……俺の顔の横をそれらしい物体が飛来することもあった。
しかしその度に優しい風がそれを優しく撫でるように流して、京極さんの元へ送っていった。
京極さんの発動したスキルは、きっと風の流れを変えて自分に集めるものだったんだろうな。
普段なら大したことのないスキルに思えるけど、今回に関してはこれ以上ないほど危険なスキル。
京極さんにそれを受けきれるだけの実力がないとは思わないけど、それでも――
「まだ!もう少し、前を!!」
再び振り返ろうとする俺に京極さんは大声をあげた。
それを聞いて俺は奥歯を噛み締める。
そうしてリンドヴルムが俺たちを遠距離から遊び、殺そうとする時間が増え、俺たちは一族の仲間や探索者が魔力の柱を顕現させているそこまで、あと少しとなる。
大した時間は経っていないはずなのに永遠に感じられたこの時間もまもなく終わる。
気持ちが緩み、俺はようやく振り返る。
――ひゅん。
「は、はは。あれは流石に無理かなぁ」
「京極、さん?って、あれは……」
振り返った先に見えたのは、より竜の特徴を帯び身体中を切り刻まれた京極さんと、遊びは終わりと言わんばかりに十字架状でやや緑がかかった鎌鼬を飛ばす準備をしていたリンドヴルムだった。




