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372話【宮平視点】反発力

『――私を見下す輩……。また股がり、揺れ動く。であれば私に敬意を払うのが同然。何かを操ろうと股がるならば、まず私がお前を、それらを、統べる地位に立つことが優先される。使い手の残留思念が形を帯び、意識となって表層に現れる……そんな神の如き現象は付喪神として現界する私、私たちだからこそ可能にする。あれは、あの薙刀の馬鹿は下手に出過ぎだった』

「あ、う……」



 饒舌に語り出したのはおそらくあの鞍。


 オタクだってそんなに早口にならないだろってくらいの語りは最早念仏。


 いや、呪言にだって聞こえる。



「なんにせよまずいのは確か……」



 急いで鞍を京極さんから引き離そうと走る、けど京極さんはすっと鞍を拾おうと屈み始めた。


 触れることすら危険だってのは分かっているはずなのに……俺みたいに耐性がないとこうも強力なのか、その支配力は。



「京極さん!」

「こっちも魔法を……」



 俺の声はもう届かない。

 周りも慌て出すが間に合うわけもない。


 京極さんが敵になる。


 そう思って頭に痛みが走ったとき、ひゅうっと突風が駆けていった。



『お前は……抵抗することもなく、私の乗り物として下っていた……それだけの分際で邪魔をするのか。それにその身体に刻まれた痛み、忘れたわけではないだろう?』



「――う、ああああああああ!」



 風に乗って宙を舞う鞍、それは次の瞬間魔力の膜のようなものに包まれた。


 同時にリンドヴルムは絶叫。

 全身に鞭の痕が浮かび上がる。


 どうやら痛みによる支配、あまりにも暴力的で下品なやり方はこいつ主動で行われていたらしい。


 この邪悪さ……強さ云々は置いとくとして、相手にしたいかどうかでいえば会長のほうがマシだったかも。



「はぁ……。あれ、どうしたもんかなぁ……」

「う……」

「あ、京極さんもう大丈夫ですか?」

「すみません。油断してました。怪我とかはないですけど……少しだるいですね」

「そうですか。でも、ああなる前で良かった。多分あのままだったら……」

「……お母さん」



 苦悶の表情で必死に耐えるリンドヴルムを見ながら京極さんは拳に力を込めた。


 助けに行きたいんだろうけど……どうにもできないのも分かっているんだろうな。


 そもそもあれには近づけないんだから。


 京極さんには頼れない。

 ならここは俺が一肌脱ぐしかないか――



「ぅぐ、あああっ!!」

『なに!?』



 剣を構えて飛び出そうとすると、リンドヴルムが京極さんと俺をチラリと見て飛び上がった。


 そして未だ宙を舞う鞍をその鋭い牙で襲いかかる。


 これには自称付喪神の鞍も慌てた声をあげる。



 痛み、恐怖に抗う母親の姿がそれだけ脅威に感じたのだろう。



 なるほど、娘に情けない姿ばっかりは見せられないってことね。

 カッコいいじゃん、うちの親とは違って。



「うおお……」

『くっ……そ。傀儡如きが……。だが……このまま引きちぎられると……消滅すると思うな! この時代まで生き残った、私を侮るな!血反吐を吐き、泥水を吸い、それでもいつかまた私はお前たちの上に君臨する!』



 リンドヴルムの牙に貫かれた鞍はそう言い残すと、逃げ込むようにリンドヴルムの口を通り、するりと体内へ姿を隠した。

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