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370話【宮平視点】光が

「なにか……まずいです!! 宮平さん! それを離してください!!」

「でも、これを剥がしきれば……」



 京極さんの声は届いた。


 だけどこの状況でそれを聞き入れて行動するのは賢い選択じゃない……論理的な思考とは別に、直感的にそう思って、手が勝手に動く。



『あと……少し』



 そんな時、どこからともなく女性とも男性ともとれる声が響いた。

 そして俺は少しだけ熱く、眠い時のようにぽぉっと意識が遠退きそうになってしまった。


 このまま布団の中に潜って眠り込んだとして……どれだけ気持ちいいんだろうなあ。なんて……。



『新しい馬、私の……私が操る。股がる奴らは全員、私のお陰なのに……自分のことみたいにして、凄く……凄く凄く凄く凄く凄く凄く、気持ち悪い。あなたは馬、あなたは乗り手になりたいなんて言わないよね――』



「はい。俺は、どっちもごめんですね!」



 怪し気な声が囁き、問いかけてきた。


 だけど、最近はこんな感じのスキルっていうか乗っ取りっていうか、暗示っていうか……そんなものが多過ぎて『またか』、なんて……。


 そう思えると途端に身体は軽くなって眠気もぶっ飛んだ。


 だから俺は声の主に食い気味に返事をしてやると、最早躊躇することなく、腰に下げていた剣で鞍の紐を斬った。



 珍しいものなのは間違いないから勿体ないって思わなくもないけど、そんな油断から捲られるB級映画はあんまり好みじゃないんだよね。



「よし。これで、剥がしてやれば完了っと……。あらら、本当にあっという間にだったな」



 ヒラヒラと舞い地面に落ちる鞍を見ながら俺も地面まで降りていく。


 リンドヴルムもそれが剥がれたことで一先ずの制御化から脱することができたみたいで、こんなに隙だらけでも襲ってこない。


 会長との契約はまだ残っているから、これで完全に味方で、一緒に戦えるってことは選べないんだろうけど……停止することを選ぶことはできた、のかな?



「――あなたたち、邪魔!!」



 そんなリンドヴルムを見て、京極さんは気が急いたのか自分の周りをうろつくスキルイーターたちをその歯と顎で引きちぎったり、握り潰したり……とにかく、雑だけど最も痛そうで強力な攻撃で殲滅。


 顔を血で染めながら嬉しそうにリンドヴルムの元まで駆け寄っていく。


 感動の再会なのに顔が怖すぎるよ、京極さん。



「お母さん!」

「まだ、駄目……触れれば戦闘の合図になるかもしれない」

「そっ、か……。でも、また会えて良かった」

「ええ。私もよ。知らない間にこんなに強くなったのね」



 触れられる距離で会話だけを交わす2人。



「家族って、やっぱりこんな感じなんだよな。普通は」



 そういって宮平家全員に視線を送ると気まづそうに目をそらされる。


 ま、俺たちはそんなに急ぐ必要はないか。



「それでは一件落着と。ただ申し訳ありません、まだ会長がぴんぴんしている間は拘束……隔離をさせていただきます。俺……私たちが安全だと思っていても他の探索者、それにダンジョン街の住民はそう思っていないでしょうから」

「ええ。分かっています。私からもどうかお願いします」



 俺の失礼としか思えない伝達にリンドヴルムは深々と頭を下げた。


 こうなることは想定していたけど、実際そうなってみると申し訳なさで一杯になるな。


 親父たちですら沈痛な面持ちだし、京極さんだって……



「それならこれも一緒に隔離しましょう。危険なものに変わりはありませんから」



 いつの間にか地面に落ちた鞍の近くまで寄っていた京極さん。


 その瞳はなぜか虚ろで、光が消えていた。

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