37話 慎二
「な、なんだよお前……。偉そうに……。いいからさっさと助けろよ!そういう約束だろ!」
「自分のことを殺した奴を素直に助けるとでも思ったか? 普通に考えれば、それはいくらなんでも都合が良すぎるだろ」
「なっ……」
慎二の顔から血の気が引いていく。
ここまで追い詰めれば流石に泣きついてきそうなものだが……。
「た、頼むよ。幼馴染みだろ。俺たち。ほ、ほら昔はよく遊んでさぁ。糞真面目なお前を俺がハブられないようにしてやってたじゃんか」
「頼んだ覚えはない。それに、学生の時はむしろお前に色々と付き合ってやったつもりだぞ。女子たちと出掛けると時についていかされたり、部費を増やすための交渉をさせられたり、遅刻の言い訳を考えて一緒に謝りにいったり、生徒会の――」
「そうだな。何をするにしても、糞真面目で地味なくせになんだかんだ評価の高い、『並木遥がいれば』、『並木遥が言うなら』って……。その言葉が心底嫌いだった」
「俺に嫉妬、か」
「……。そうさ。だからその女、陽葵なんていう美人で、スタイルがよくて、気高くて、探索者として最高クラスの女がお前に惹かれているのが、気に食わなかった。お前に御執心のそんな女だからこそ、欲しくなった。だから、そのためにお前を殺して――」
「魅了を使って、お前の嫉妬心を満足させる道具にした、か」
「そうさ。悪いか。元はと言えば、お前が俺よりも優秀だったのが悪いんだ。折角お前がレベル100になっても弱いままで落ちぶれてくれたのに、それでもなお、陽葵に好かれていたお前が悪いんだっ――」
気持ちが昂りすぎ、魔法を行使し続けるための集中力を欠いてしまった慎二は、重力枷から解放された竜から攻撃を受けた。
というか、その攻撃は慎二の聞くに耐えない話を遮るために俺が命令したんだが……。
「う、あ……。……。……。死、ぬ? 俺が? この、俺が? くそっ! 遥、お前はもういい! おい女ども! 俺を助けろ! おい! おいっ!」
一瞬意識が飛んだ慎二は口内を切ったのか、その口からから血を溢しながら、攻撃を受けた箇所を必 死に抑えて呼び掛けた。
だが、その呼び掛けも虚しく女性たちは慎二を助けようとはしない。
もしかすると、一定のダメージを受けたことで魅了が解けたのか。
「残念だったな慎二。魅了が失くなると、お前の人望も失くなるらしいぞ」
「くそ、くそくそくそくそくそおおおぉおぉおおお!……。なぁ、今のは全部嘘だ。だから助けてくれ。なぁ頼む、頼むよ。この通りだ。俺を、俺を助けろよ!このくそ幼馴染み――」
俺は慎二のその言葉を聞くと竜の頭を切り落とした。
そして腰を抜かしたまま、安堵の表情を浮かべる慎二のもとに近寄り、その言葉を復唱する。
「こんな状況でも、その態度。本当に残念だよ、慎二。まぁそんなお前だから、俺は躊躇しなくていいんだけどな」
俺は慎二の首辺りに水の剣を近づけ、とびっきりのどや顔を披露してやるのだった。
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