368話【宮平視点】跳躍
「うああああああああああああああああ!!」
スキルイーターの絶叫を聞きながら、俺は自分で作った、というか作らせた道をさらに速度を上げて走っていく。
あまりの惨状に気の毒だな、とは思うけどさ、こっちはこっちで仕事が残ってるんだよね。
「そろそろか……」
リンドヴルムとの距離を確かめて、俺はようやく打って出ることにする。
本当はそのまま背後に回って攻撃を仕掛けたいところだけど、操られているとはいえリンドヴルムが俺の行動に気付いていないわけがない。
であれば直接攻撃を仕掛ける前に小細工をする必要がある。
ま、そんなことをすることができるくらい余裕があるんだから、普通面倒だなんだって愚痴を溢さずやってのけてやらないといけないわけだけど……。
「ただ、1点。あんまりにも俺のことを無視しすぎてるのは、ちょっと気に食わない。そんなに俺は魅力的に映らないのかな?」
これだけ距離を詰めているってのに、リンドヴルムはスキルイーターと京極さんの戦いに目を向け、そちらばかりに集中している。
殺気はあるから、攻撃する気を窺ってるってとこなんだろう。
確かに目の前で暴れる京極さんの強さは異常だと思う。
力だけなら苺よりも上なことは間違いないし、まだなにか秘策を持っているようにさえ見えるから。
でも、だからって俺のことをそこら辺で飛び回るハエのように扱うのはやめて欲しい。
これでも身なりには気を遣っているし、女の子にはモテモテ……ではないか。
「は、そんな冗談はいいや。今は仕事の時間。油を売ってると苺になにを言われるかたまったもんじゃないからね。……『誤解』、『誤解』」
対象である地面に一瞬視線を落としてスキルを発動。
お前はこんなに硬いものじゃない。
もっと弾性のゴムのようなもので、楽しい性格だろ?
そう心の中で何度か声を掛ける。
すると足は途端に深く沈んだ。
人やモンスターのように心臓があり、思考を巡らせられる生命に比べると、やっぱり自然なものはいい。
従順で手玉にとりやすくて……ちょっとだけ楽しくさえ思える。
昔はこの感じが好きってのも相まって……人を、一族を、掌握しようって躍起になってたっけな……。
あのときの邪悪な自分は駄目だと思うけど、思いきりの良さ、それだけは今思い出しても悪くないかもしれない。
「てなわけで……せーっの!!」
沈んだ足に力を込めて、躊躇なく盛大に跳ねる。
元々が硬い地面ってこともあって跳ね返りは大きくて、その勢いも強い。
まるで弾丸のように俺は宙を飛び、一直線に鞍を目指した。
「……」
するとようやく俺に関心を持ってくれたのか、風竜はチラリと横目でこちらを見た。
だからといって身体の向きを変えるでもなく、スキルや魔法を使うわけでもない。
ハエ叩きの要領でその長い尻尾をしならせ、振り下ろす、ただそれだけ。
「うっ……。これは……厳しいか?」
リンドヴルムの尻尾によって巻き起こった風。
それを受けた俺の身体は、咄嗟に正面で腕を盾のように構えてしまい、上手く身体を捩らせることができなかった。
つまり……回避することができなかった、させてくれなかった。




