367話【宮平視点】風竜
「移動完了……。あの様子なら他のスキルイーターと探索者も振り分けられているだろうし、一先ずはさっきみたいに一斉攻撃を仕掛けられることもないかな?」
「ええ。それに今の探索者の皆さんであれば、振り分け後も有利に戦闘を進められるはずですから……」
「そうですね。まずはあれに……すみません、あなたのお母さんに集中しないと」
正面に映るのは巨大な竜。
苺もいなければ遥君も橘さんだっていない。
一応うちの一族連中はいるけど、あれに戦闘のあれやこれを一任させるにはまだまだ実戦経験が足りない。
コロシアムに通う宮平の人間らしくもない人もいたみたいだから、今回の一件に関して覚悟はできてるはずではあるけど……。
けどねえ……まさか俺が前線の、攻撃の主力ってのはあまりにも心もとないんじゃない?
今更言ったところでどうにもならないんだけどさ。
「う、うう……」
「普通に接近戦するには俺じゃ実力不足……であればこそ、攻めるのは今しかないのかもね。……京極さん、俺は一旦鞍を狙ってみます」
「了解です。なんとかこっちに気を引き付けて、一緒に送られてきた何匹かも適当に払っておきますね」
「適当に、ですか……それは心強いっ」
覚悟を決めて走り出す。
敵はリンドヴルムが1匹……1人と、スキルイーターが数匹。
真正面から突っ込めばリンドヴルムどころかその数匹が邪魔。
だから俺は誤解を用いて独自のルートを作る。
「対象範囲を決めて……そこ、その箇所の地面にだけ誤解をさせる。そこは元来高くあった、ってね」
俺が踏みしめたと同時に地面は勢いよく隆起を始め、だんだんと坂となり、最も高い地点はスキルイーター3匹分まで到達。
それでもこっちに攻撃を仕掛けようと魔法陣を展開させたり、スキルで身体を変化させようとする奴らがいるところを見るに、スキルイーターはモンスターとして無差別に攻撃を仕掛けているんじゃなくて、そこに意思があって、なにかを目的として動いているのが分かる。
それでそれはただ単純に俺を食いたいから、って風には見えないのがなんとも……。
スキルイーターが人から作られていることも知っているから、その行動に対する警戒心は普通のモンスターと対峙するときよりも勝手に高くなってしまう。
こんな心配性で観察癖のある俺が特攻隊長は荷が重いのなんのって……。
「だから補助頼みますよ京極さん、みんな」
「当然です! サポートは私の十八番ですよ!」
強い風が吹く。
そしてそれに乗って京極さんが滑るように移動を開始。
そうしてあっという間に俺よりも少し前のスキルイーターの元までたどり着いた京極さんはスキルイーターと取っ組み合いになって……。
――ぶち。
その腕を腕力だけで引きちぎった。
宙を舞うその腕、吹き上がる血はスキルイーターたちだけでなくこの場にいた全てのものの視線を集めた。
「私、戦うのは好きじゃないんです。だって怖くて怖くて怖くて……反射的に、手加減なく殺しちゃうんですもん」
いつものようににっこりと微笑む京極さん。
でも竜の力を発揮しているからなのか、紋様がはっきりと浮かび上がったその顔、瞳には灯りが射していないように見えた。
怖い怖いって……俺は今のあなたのほうが怖いと思いますけどね。




