364話【苺視点】究極?
「嘘……この声って」
「べー姉急いで!こっちに!」
男の声が聞こえた。
だから私はぶっきークッションを軽く蹴飛ばしながらお母さんたちから離れて、急いで武器を構えた。
もうぶっきーは戦えない。
お母さんたちも、多分さっきの魔力と電力の移動で疲れきってる。
相手はもうボロボロだと思うけど、優勢……なんて思わないほうがいいかもしれない。
「俺は、こんなところで……。死んでいい人間じゃない。俺は不死身、不死身不死身不死身……騙せ自分自身を」
慎二兄の最後の思念。
それを彷彿とする小さい笑い声はだんだんと輪郭を帯びて、はっきりと大きくなっていく。
そして目の前には塵がだんだんと集まって、形を作ろうとする。
「させない。すぅ……。あ゛あああああああああああああああああああああああああああ!!」
塵を吹き飛ばそうと、叫び声で空気を震わせる。
それでも油断はできないから武器をもって急いでその辺りを斬りにかかった。
なにもないはずなのに、手応えがある。
神宮はもう、ここにいる。
「……まさか、不完全とはいえスキルイーターからそれを捻出するとは思わなかったなぁ。やっぱり、まだまだやりたいこと知りたいこと、研究したいことは尽きない。人は、モンスターは本当に面白い」
斬った感触とは反対に、神宮はどんどん人の形になっていく。
なんで、こいつはなんともないの?
「苺ちゃん! こいつは1度凍らせる! 少し離れて!」
「そうか……あの種の影響。それにこうして魔力や人に触れることも抽出の起因になっている可能性がある、と……。だけど、これだけでは身体の維持は難しい。1人ならともかく2つの人格ではな」
「……うっ」
神宮がお母さんたちを見て笑った気がした。
すると、お母さんたちは辛そうな声をあげた。
「神宮……なに、した? お母さんたちになに……した!!」
「何もしていないさ、ただ丁度限界に達した。それがそれだけだ。ほら、何もしないと崩壊してしまうぞ。大分無理をしてしまったみたいだからね」
――コロン。
お母さんたちの角が、その破片が地面に転がった。
嫌だ、折角……折角会えたのに。
「くっ! まずはこっちね。大分魔力は、使っちゃうけど……『永氷』」
「べー姉!?」
「ほう……考えたな」
神宮に向けられていたはずの掌はいつの間にかお母さんたちに向けられていた。
そして止める暇もなく、お母さんたちは凍っていく。
「苺……。また、会える。その時を待ってるから」
「お母さん、お父さん……」
「ごめんね、苺ちゃんこうするしかなかったの」
凍っていく2人の表情で私は察することができた。
だからべー姉には怒りなんてなくて、感謝しかない。
2人が死ぬのを、一時的のなのか分からないけど、とにかく止めてくれたんだもん。
「永遠の氷……。人が生涯その身体を維持する、そんなイメージ。魔力残子とその流れ……。できるできるぞ! もう一度身体を取り戻す! いや、新しい究極の肉体を産み出すことが――」
『中身がすかすかで究極は無理でしょう? その証拠に干渉は容易いですね』
高笑いを始めようとする神宮、でもそれを聞き覚えのない声が遮った。




