36話 意地悪な質問
「でも、ちょっと重なったりで誘き寄せにくいわ。遥様、ちょっと背中借りるわ、ねっ!」
「いっ……」
ハチはわざとらしく困ったフリをすると、俺の背中を階段を上るかのように駆け、そのまま高く飛び上がった。
「水弾……連射。バンバンバンバンバンバンッ、なんてね」
2丁拳銃をイメージしたおふざけ混じりの攻撃。
威力はハチの演じる役が、この後の俺を際立たせるくらいの丁度いい強さなだけあって、驚くほどではない。
ただ、その正確さと今まで以上にディレイがない、連射という点が、慎二や陽葵さんたちの目をぎょっとさせる。
因みにだが、俺もほぼ同時に魔法を発動させられるなんてことは聞いていなかったから驚いてはいる。
まぁ、威力のコントロールや滅級魔法の存在を知っていると、これくらいはできるだろうな、とも思ったが。
「本当に何者なの? ねぇ遥君、あなたはあの女性の知り合いよね、ちょっと詳しく――」
「それは後でお話しします。ハチのお陰で早速集まってくれましたから。陽葵さんは俺の側を離れないようお願いします」
「分かった、けど……。な、なんだか遥君が、遥君じゃないみた――」
「十二重斬」
俺は陽葵さんが何か言い切る前に、事前にハチに作ってもらっていた水の剣を振った。
すると範囲に入った竜たち、正確には慎二の元まで移動した奴以外全員の首が地面に落ちた。
こういった攻撃を仕掛けることも、1度殺されて欲しいということも伝えてはあったが、流石に可哀想過ぎたか?
でもあいつらにはたっぷりご褒美をあげる約束もしているし、結局は全員が死なない限り復活できるから、あいつらからすればなんてことのない仕事だったかもしれない、と思うようにしよう。
『気体になったぞ!早く取り込んでくれ』
『分かってるわ。でも……そんなに慌てなくても皆遥様の姿から目が離せないでいるみたいよ。なんかちょっとマヌケで可愛いわ』
『いいから仕事を頼む』
『はいはい、まったくド真面目なんだから。こんな時くらい思いっきりどや顔をしたらどう?』
『それは……もう少しだけ後にさせてもらうよ』
「……。な、なななななななななななによ、今の攻撃……。一斉に首が……。いや、それよりあの威力……。私ですらあの鱗を斬るのに一苦労だったのよ」
「陽葵さん、落ち着いてください。その話も後でしますから。そんなことより……」
ハチと念話していると、ようやく陽葵さんが口を開いた。
いつものクールなイメージとは違って、動揺を露にしすぎているから、俺は取りあえず自分のことを有耶無耶にして慎二に視線を向けた。
ポカンとしつつも、竜に対して最上級魔法を行使し続けているのは感心だが……。
さて、このまま俺に感心したと信じて助けてやるか、それともこの状況下を利用して罪を少しでも償わさせるか……。
「――おい慎二! お前、俺に助けてもらいたいよな?」
俺は少し意地悪な質問で慎二の反応、態度を窺い、特別に判断してやることにした。
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