359話【苺視点】ふわふわ
「ふふ……。苺ちゃん、赤ちゃんみたいで可愛い」
「きゅぅ!」
「赤ちゃん……。べー姉それ、ちょっと意地悪」
戦いが終わってみんなの顔から緊張が消える。
思ってたよりも大変で、時間も掛かっちゃったけど……全部全部上手くいった。
あれだけ種を食べちゃって、気持ちがおかしくなったからこのまま身体がどうなっちゃうのか不安だったりもしたけど……。
うん、だんだんと戻ってきてるように感じる。
それで、この大人の身体も凄く良かったけど……やっぱり前のほうが今の私にはちょうどいい。
あと、力に関してはむしろその反動があるんじゃないのかなってくらい湧き上がってる。新しい何かが生まれるようなそんな気持ち。
お母さんとお父さんが今度は心配しないように、こんなことさせちゃわないように私は、もっともっと戦わないといけない。
ううん。
戦わないといけない……じゃなくて戦いたい、のが今は強い。
だってこの背中を、強くなって成長する私を見せたいって思うから。
まだまだ強くなれるって思えてるから。
……そう思ったらおもいっきり戦いたい気分になっちゃった。
慎二兄は普通に殴り合わせてくれなかったから――
『――嫌だ。消えたくない。まだまだ……いい酒を飲んで、ギャンブルで金を溶かして……これでもかって女を抱くんだ。だから、だから、死にたくない。……慎二、慎二慎二慎二慎二。その特異をあいつらに売って、俺は、俺は欲望の波に揺られて暮ら――』
「うるさい」
慎二兄だったその塵……そこから流れ出る思念が頭の中に流れた。
そうして和やかだった空気に水を刺されたから、イラッとしちゃって私は斧で塵を払った。
死んだ人に対して攻撃するなんて本当はダメだけど、これはしょうがない。
まさか、死んでも気持ちが残るなんて……よっぽど欲が強くて、しつこくて、それを可能にしてるはずの、あの共有? 共感? ってスキルは呪われているって言われても不思議じゃない。
「雷と一緒にあのスキルの根元である、内在された魔力と力も角で受けて流してしまったはずなんだけど……まさかまだ、あんな状態になって残ってたなんて思わなかった。やはり、あいつらはどいつもこいつもしぶとくて、一筋縄じゃいかない。だから……この場の戦いも終わりじゃない、か」
そういいながら上を見るお母さん、お父さん。
それにつられて私もべー姉たちも空を見上げる。
「あれ……」
「あっちはあっちで最終局面ってことね。……それにしても、なんだか元気が感じられないと思ったらそういうことだったのね。だらしがない、って言いたいところだけど……あれ、相手が相当悪そうじゃない」
「きゅぅ……」
風に乗ってふわふわと散って行く塵、その先にはボロボロで動くこともままならないぶっきーが浮いていた。
そして、その近くにはあいつが……お母さんたちをこんなにした張本人、なんでかわからないけど竜の特徴を持った神宮の姿があった。
どっちも私たちに気がついていない。
それだけ2人が自分たちの世界に入り込むような戦闘を繰り広げていたんだと思う。
本当はそんな中に割り込むのは良くない、けど……あのままじゃ多分……。
「……。べー姉、お父さん、お母さん、メロリンも……今からぶっきーを助けて、神宮をぼこぼこにする。いい?」




