358話【苺視点】いいんだ、いいの
「分かった。任せて。……任せろ。苺は少し休んでるといい。ありがとう。こんなこと出来るようになるなんて、本当に大きくなったんだな。なったのね」
優しい声。
それと反対にお母さんたちの身体に力が入るのが分かった。
『――避雷針:避魔針』
――ドンッッ!!!
お父さんとお母さんの声が重なって聞こえると、雷が落ちたのか、大きな音が響いた。
身体の中で太鼓が鳴らされてるみたいに勝手に身体がびくびくずんずん動いちゃう。
周りの状況をみたいけど、私の前にはお母さんたちの身体がだけがあって、ぐっと抱き寄せられてるから首も回せない。
ただ分かるのは私は痺れてなくて、痛くもないってこと……。
つまり、慎二兄は今のぶっきーの攻撃を受けないところにいる……或いは、まだお母さんたちの中にいる。
種の効果で一時的に切り替わっただけじゃ、またお母さんたちと会えなくなっちゃうかもしれない。
「そんなの嫌。お母さん、お父さん……どこかに、また行っちゃわないよね?」
2人がいなくなった世界を考えて、また泣きそうになっちゃった。
でも私の不安を察してくれたお母さんたちは私の頭をポンポンと叩いてくれると、ゆっくりと口を開きその腕から力を抜いた。
「見てごらん苺、さっきの悪者はもういないだろ? でしょ?」
「……本、当だ」
振り向くと、霧のように白んでいた景色はいつの間にか晴れていて、辺りからは焦げた臭いがしていた。
凄く強い、力の解放が行われたような跡。
だけど、私には傷1つない……そして慎二兄の姿もない。
あるのは高く積まれた黒い塵と……その場に身体を伏せていたべー姉とメロリン。
「いたた……。な、なんなの今のは……ぶっきー、まさか……」
「きゅぅ……」
「べー姉、メロリン! 良かった生きてた!」
「苺ちゃん!? ちょ、ちょっとそんなに強く抱きつかれると痛い、けど……ま、まぁどうしてもって言うなら特別にそのままでもいいかもね」
「きゅぅ!? ……きゅぅ!」
嬉しくてべー姉に抱きつくと、真似してメロリンも混ざってきた。
ちょっと暑苦し……。でも最高。
「ひとりぼっちにさせて本当に悪かったと思ってる。でも……そうか、こんなにいい友達ができたのか。できたのね。ありがとう2人とも。うちの子がお世話になって。それと……本当に申し訳なかった。戦闘に巻き込んでしまって……」
「いやいやいやいや、別にそんな謝らなくても……って、もしかして」
2人の謝罪にびっくりするくらい恐縮するべー姉。
でもそんなべー姉は2人を見た途端驚いた顔を見せた。
それにつられて私もお母さんたちを見る。
「お父さん、お母さん……。それ……」
「ああ……。これね。大丈夫よ、これくらい。古くなっているし、完全じゃないから痛くもなんともないの。それにね……」
主に白髪で、先端だけ黒色の長髪、お母さんの姿がベースになっているみたいで中性的な顔立ち、でも懐かしい、安心できる顔。
そして……痛そうに折れてしまっている角。
きっと私を、みんなを守るための代償……。
「ごめ――」
「苺の頭にあるこの小さくて立派な角が無事ならそれでいいの。いいんだ」
そう言って微笑みかけて、撫でてくれるお母さんとお父さんの手は、今までの時間を埋めてくれるくらいおっきくて暖かった。




