357話【苺視点】居たい
「やめろ!それを……もう食うな!食うなっ!」
「やだ。絶対に止めない」
慎二兄が自分の身体を痛めつけても、種を噛む、飲み込む。
そんな私を止めようとして慎二兄は余裕なんてどこにもない、必死な顔でずんずんと近づいてくる。
決して早くはないけど……それから逃げるだけの余裕が、私にもない。
「絶対にさせない。凍らせるのは、苺ちゃんまで止めちゃうことになるけど……これなら多少はマシなんじゃないかな?」
「あ、うぐ……」
申し訳なさそうに佇んでたべー姉だったけど、やっぱり便りになる。
慎二兄を羽交い締めにして、口の中に無理矢理手を突っ込んで……それがちょっと苦しくはあるけど、これならまだ続けられる。
とにかくその身体を、お母さんたちが取り戻すための道を作る。
――ガリガリ、ボリゴリ……ごくん。
「う、身体が……なんか、弱く……」
張り裂けそうな胸。
慎二兄を押さえ付けるべー姉の力が強くなったように感じて、暴れ出そうな人の部分が身体を叩いて、裂けそうで……それは強く、強くなっていく。
そっか。オーガの血って、身体ってこんなに丈夫だったんだ。
知らない間に私はお母さんに守られてた。
それに、学校とか行ってない私でも、知識が全然ない私でもこうして頭が回って、ここまで生きてこられたのはお父さんのおかげ。
薄れて、強まって、2人のことがもっともっと愛おしく感じるよ。
「うっ、ああ!!」
「だから、早く戻ってきて!」
――ぷしゅっ!
「え?」
「苺ちゃん!」
慎二兄の身体から血が噴いた。
同時に私の口からも血が垂れた。
種は……お母さんたちだけを浮かび上がらせたんじゃない。
こんな醜態を晒す慎二兄に怒った、その身体を構成する他の意識たちが慎二兄を飲もうとして暴れて……身体を少し壊したみたい。
このままだと……私まで死んじゃう、かも。
「どうしよう、べー姉。お父さん、お母さん――」
――きら。
諦めそうになって、泣きそうになって、助けを求めようって弱音が口から出ると、普通じゃあり得ない、光が強くなるときの、漫画でしか聞こえない効果音が確かに耳に届いた。
これは……雷。それもかなり強い。
そっか、これはぶっきーの……。
もういっそのことこれで殺してくれるほうが痛くない、つらくな――。
――いち、ご……。
光で目の前が真っ白になって、雷の音で耳がちょっと痛くて、でも確かに聞こえた。
頭の中で響いているわけじゃない。
そこにいる、私がずっとずっと求めてた『人』が私の名前を呼んだ。
「最後に、会えて良かった。お母さん、お父さん」
「……最後なんかにさせない。私たちがあなたを殺させるわけない」
種は完璧なものじゃないし、今目の前で起きたことは奇跡。
だから言葉がぎこちないけど、それでも話せて私は嬉し――
――ぎゅ。
諦めてた私の身体が温もりに包まれた。
それで、安心感と安堵と……もっとこうしてたいって欲が湧く。
こんなこと言ったら、未練が残っちゃう。でも……。
「私……もっど2人ど……い゛だい!」
喉奥から、涙と一緒に……勝手に溢れちゃった。




