356話【苺視点】がりがり
「うっ、ぐっ……。まさか、お前……馬鹿じゃねえのか! お前だってダメージがあるだろうが!」
「うん。でも、これしかないならやる」
――ドン、ドン!!
できるだけ慎二兄が痛がるように、自分の鳩尾辺りを叩く。
こっちもよりも慎二兄のほうが痛そう。
これなら、多分気絶するよりも先に気絶させれる。
「この、狂人が……こうなったら」
――ペリ。
慎二兄が自分の指の爪を1つ剥がした。
派手な攻撃を受けたわけでも何でもないのに、痛くて声が出そう。
全身に雷が当たったみたいに痺れる。
でも、でもこの手を止めちゃ――
――ペリ、ペリ、ペリ……ポキッ。
この音、感覚……骨が折られて……。
「う、あああああああ!!」
「苺ちゃん!」
「はあはあはあ、ようやく止まったか? 俺はすぐに治るけどそっちは治らないもんな! 痛いよな! ずっとずっと!! ちっ、順番変更だ。これ以上何かされる前にお前のスキルから食ってやるよ!おい!この拘束を溶け!」
「それは……」
「これ以上のことを、痛みをお仲間に与えたいってのか!」
「ごめん、ごめんね、苺ちゃん……」
氷が溶けて、慎二兄がこっちに走ってくるのが見えた。
もしこのまま食べられちゃったら、その味も分かるのかな?
自分で自分を食べる……。味の共有……。
「あ、もしかしたら……でも、ない。もう種ポッケにな――」
慎二兄が来る前に、最後に1つ試したくてポッケに手を突っ込んだだけど種はなくて、諦めて手を広げた。
その時、私の手に何かが触れた。
ううん、しっかりと握られた。
温かくてぶよぶよで、その真ん中には硬い感触があった。
これって、種?でもなんで?
辺りを見回す。
そうすると見たことのある足跡がいくつもあることに気付いた。
そっかあの子、こんなところまで来てくれたんだ。
それで、戦うのは苦手だけど何かしようと思って種を持ってきてくれた。
ポケットがどんどんどんどん重くなる。
重いけど、優しさはいっぱい……あればあるほどいい。
「ありがとう、メロリン。……いただきます」
――かぷ……。ガリ!
「お前、まさか……。……。……。ふ、ははは。なるほど、確かにその考え方、発想は凄く面白いよ!だけど、その種の影響を受けるのはモンスターだけ。それにこの共有は効果をある程度反映できるが、別に実際に食べ物が身体に入るわけじゃない。そんなことをしたところで大して意味は――」
――がさ。ガリガリ、バリバリ。
お代わりはどんどん追加されるから、いっぺんに取り出してお菓子みたいに種を口の中に放り入れる。
味付けしてないから何か物足りないけど、食感が楽しくて苦じゃない。
それで、一番肝心なところ……私の中で変化は起きてた。
いつもより魔力が膨らむ感じがある、だけど少し身体が重い。
多分だけど、これを食べたことで人の部分が強く反映されたんだと思う。
魔法って全然使ったことなかったけど、今ならいっぱい使えそう。
でも、力が……たくさんたくさん戦いたいって気持ちが薄れて、それが変な感じで……何か怖い。
気持ちがきゅっと、縮んでいくみたい。
臆病になる。その場にしゃがみこみたい。
お母さん、お父さん、みや……私、私……。
「――はぁはぁはぁはぁ、くそ……出てくるな。お前ら。まさか、俺を飲もうと……。う、あああああああ!」
「……でも、あと少し……なの? お父さん、お母さん……。く、う……つらいけど私、頑張るね」
慎二兄が叫んだ。
種の効果が反映されてる証。
それが分かったから、私はまた1つ種を口の中に入れて、噛み砕いた。




