355話【苺視点】我慢比べ
「くくくく……」
「こいつ、マゾ? 気持ち悪いけど……苺ちゃん!今よ!」
「う、ん……」
慎二兄の腕は、つうっと地面まで垂れる血が凍ることでその位置で固定されてる。
腕、氷 、地面、この3つが繋がって、慎二兄はオブジェに見えなくもない。
そんな状態……絶対にチャンス。
なのに、私の右腕も凍っちゃったみたいに動かない。
仕方ないから片手で斧を握るけど……攻撃するのは、良くない。
なにをされてるかわかんないけど、なんだかそんな気がする。
「苺ちゃん?」
「へぇ、見た目より賢い嬢ちゃんじゃないか。でも、こうしたらどうなっちゃうかな」
慎二兄が自分の身体を残った手でまさぐる。
そうすると、私の身体もすっごくすっごくむずむずして気持ちが悪い。
分かった、この力がどんなものか……。
「こっちもこっちでエッチ、変態」
「あはははは! そうかそうか、そう思えるだけの羞恥心はあんのか!ま、でも安心しろ身体の感触が伝わってくるというより、かゆみとか痛みとかが共有されてるだけだからさ」
「――何が、『安心しろ』なのかな? ……あ゛っ?」
べー姉のおでこに皺が沢山寄った。
殺気が凄くて怖い。
いつもより迫力もあって、おかしいくらい汗が止まんない。
これも多分共有されてる影響?
「お前だけは絶対に殺す」
「ひっ! やめろ、よるな!!」
べー姉は慎二兄の脚の汗を凍らせてさらに固定。
それでぶんぶん振り回す手を強く握る。
気付けばべー姉の爪は長く伸びて、そのまま慎二兄の皮膚に刺さってる。
これ、私も結構痛い。
――ぽたぽた。
「血が……」
「あ、ごめんね苺ちゃん! そんなつもりはなくって――」
「……。かはは……なんだなんだ、あんまり怖い顔するもんだから何か策があったりでもしたかと思ったけど……何もないんじゃん!いやぁ、それにしてもモンスターのお姉さん、凄く美人ですね」
私の手にできた傷、そこから血が流れ地面に落ちるとべー姉の顔が青ざめて、反対に慎二兄は嬉しそうにまた舌をべろべろしだした。
こんなにべろべろするの、犬なら良かったのに。
「共有が他に移せるまでまだまだ時間があるし……お姉さんのスキルから食べちゃおうか。大丈夫、殺さなくても怖がらせたりするだけでスキルは食べられるようになるんだから。そう、怖がらせたりするだけでね」
「うっ……」
慎二兄の舌べろがべー姉の頬っぺたに当たった。
その味がこっちにも伝わる。
しょっぱくて、ひんやり。
「じゃ、まずはその服を脱がせてあげようかな」
「な!?」
慎二兄の手がべー姉の服を掴むと、べー姉はそれを払い除けようと手を叩いた。
でもそれは大して痛くない。
「手加減されちゃ全然痛くないよ。でもね、その行為にはイラッときちゃったかも。いいかい? 俺がちょっと力んで舌を噛みきったりでもすれば、俺は再生力があるから生きてはいる、けど……あっちの子は死んじゃうかもしれないんだよ」
「お前……」
「分かったかい。だから抵抗はするなよ」
べー姉の服が破かれる、下着も胸もちょっとだけ見えちゃった。
それで……べー姉の顔、泣いてる。
恥ずかしい、悔しい、気持ち悪い、全部の気持ちが共有されてる感覚なんかよりもずっと伝わる。
私のせいでこうなった。
だから、私がなんとかしないと……。
「……。ねぇ、我慢比べしよ」
「は?」
――どん!!
慎二兄が振り返ったのと一緒に、私は自分のお腹を自分で思い切り叩いた。
痛いけど……あっちも、あっちのが痛そう。




