354話【苺視点】嫌な顔
「慎二……。そう、あれの家族。だから凄い嫌な顔」
「やっぱ知ってるか。何でもこっちじゃ有名人らしいからな。んでその言い方だと居場所もバッチリなんだろ?なあなあ手取り足取りさ、なんならお茶でも飲みながらだっていい……」
「――このロリ食い!! くそロリコン野郎が!!」
攻撃しながら段々顔を近づけてきてた慎二の兄ちゃん。
それを、話を聞き終わるよりも先にべー姉が蹴り飛ばした。
うん、ナイスべー姉。
「はぁ……。大人しそうに見えて気の強い女だな……。だけどよ、この身体の前じゃご自慢の体術も無駄かもよ?」
慎二兄はべー姉の蹴りを避けられなかった。
お父さん、お母さんより、多分戦うってことに慣れてないんだと思う。
だけどスキルイーターの身体の大半を占めてる嫌な奴ら、それをまとめてるからなのかな……さっきよりもスキルイーターの身体が強くなったみたいに感じる。
抑えてた、眠ってた力が起きちゃった、そんな感じ。
「強い……でも、さっきまでよりも戦いやすい。だって嫌なやつってすっごく殴りたくなるから」
「うん。それで今度こそ種を飲み込ませよう。ちゃんと飲ませれば効果は期待できる。実際、こいつは普通に話せているわけだし」
「うーん……。それはそうかもしれないけど、あれを食わされた時さあ……また別の何かが生まれる、そんな感じもあったんだよね。だから最悪それに飲まれちゃうかもよ。そっちのお姉さん、生まれる瞬間に成り代わりたいって思ったりはしなかったかい?」
「……こいつ」
慎二兄がべー姉を言葉でいじめる。
その顔が本当に気持ち悪い。
だからもうお話はいいよね?
「べー姉いじめるのは許さない。それに……べー姉はポチを飲み込まなかった。何も悪いことなんかない」
「おっと!こりゃおっかない!お茶を飲んで、そのあとにどっかの建物でしっぽりと……なんて、残念だけどもうできそうもないね。下品にこの場で、モンスターらしく肉を引き裂いてスキルを食わせてもらうことにするよ。ああ、今からどんな顔をしてくれるのか楽しみだ」
斧を握って振り下ろす。
でも今度はちゃんと動きを見てたみたいで、ギリギリ避けられちゃった。
身体は硬いだけじゃなくて、速くもなれたみたい。
それに……。
「ちょっと、痛かった」
別に攻撃されたわけじゃないのに、なにかにぶつかったみたいな痛さがあった。
耐えられないわけじゃないのに、おかしい。
「……くくく。金のためだけに受け入れたはずの仕事だったけど……まさか金じゃ得られない、違う楽しみがあるだなんてなぁ。それに、地上の奴らとは違ってあんたたちは力の影響を受けやすい。こりゃ、俺たちみたいな日陰の存在には天国だったりして……」
「笑っている余裕があるとでも?」
嬉しそうな慎二兄をべー姉がまた蹴り飛ばそうと、上空から攻撃を仕掛ける。
氷で作られた翼はきれいで、重くて、滑空の速さを増させる。
「ぐぅ……」
「そのまま凍れ!」
べー姉の蹴りを受け止めた慎二兄の腕に擦り傷ができ、見えた血はみるみると凍って……なんだか私の身体まで急激に冷えていくような気がした。




