353話【苺視点】覚えてるかい
「今の……怖いの、黒いの何?」
「苺ちゃん、大丈夫!?」
手を抜いて一歩下がる。
突き刺したまま放置していた斧を手にとって勝手に身体が臨戦態勢になった。
そんな私を心配してべー姉はすかさず私のところに来てくれる。
過保護。でも嬉しい。
「だいじょぶ。ちょっと痛いけど、深く噛まれたわけじゃない」
「……うん。じゃあ一先ずは成功って感じなのかな?」
「それは分からない」
「?でも、種の影響で破裂したりしてないし、壊れてるようにも思えない。私と……ポチと一緒で適応できた気がするんだけど……」
「副作用ないのはお母さんたちが頑張ったからでも特別だったからでも……多分ない。あれは、違う……怖いのがいたから。半端なとこで、邪魔された」
――ぺっ。
べー姉に思ったことを教えてると、お母さんたちの口から唾と一緒に砕かれた種が吐き捨てられた。
一番危険な副作用がなかったのは、完全に飲み込まなかったから……。
それでこうなっちゃったのは多分種の効果が足りない、弱かったから……だと思う。
それにしてもきちゃない。
踏んづけないように気を付けないと。
これ、みやに新しくしてもらった靴、汚すのはまだ早い。
「――あ、あ……。声が出る。へっ。取りあえず、俺が代表ってわけね。ま、しょうがないか。あとの有象無象は会話なんて絶対にできないもんな」
「……誰? お前」
「おい、お前……苺ちゃんのお母様たちをどうした?」
声が、空気が……少しくすんでた青色が真っ黒になったみたいに汚くなっちゃった。
お母さんたちに食べろ食べろって囁く、嫌なやつ。
ううん、嫌なやつたち。
「お義母様たち……。ああ、あれは邪魔だから退いてもらった。種が浮かび上がらせた人格は、前にも増してうるさかったからさ。いやぁ、中々の精神力で苦労したぜ。ただ、数ってのはすげえよ。あんなのよりも俺みたいなのが先行出来るんだから。あ、それとあの種が中途半端だったおかげでもあるか」
半笑いのスキルイーター。
この感じ……どこかで見たことある。えっと、確か……確か……。
「そんじゃ折角出てきて、しかもこんなにも高性能な身体を使ってもいいって言われているんだ、存分に暴れて……若い女の子からスキルを奪う、食ってやろうかな」
スキルイーターの顔、男の人のいやらしい顔に、完全に変わった。
中、性格で見た目も変わるみたい。
お母さんたちと違って舌をべろべろして気持ち悪い。
角だけが残っているのもなんか嫌。
「戻して」
「それは出来ない相談だ」
スキルイーターのなんの考えもない適当な攻撃。
爪を立てて何回も何回も突き出すだけ。
でも速い、それに……身体がちょっとおかしい。
「ははは、なんだ俺ってばそこそこやれるじゃん。あいつらの口車に乗せられてこんなことになっちまってさ、騙されたなんて思ってたけど……なんだなんだ、こうなれることも折り込み済みだったってことか? なら事前に言って欲しいもんだぜ。いや……それっぽいことは言ってたか」
「あいつら? 口車?」
「あ、気になるか苺ちゃん。そうだな、もしかするとあいつの居場所も知ってるかもしれないだろうし……教えてやる。俺の名前は幸村。金のために弟を捨てた馬鹿親父、それを金のために捨てて、時には自分の身体も投げ売る……愛多き男。なぁ、慎二って名前に覚えはあるかい?」




