351話【山吹視点】
「こんな状態でもその強気……。飼うには向いてない。向いてなさすぎる。だとすれば、勿体ないけど糧になってもらうしかないかな。スキルイーターと、俺の……ね」
「か、て?食うのか、俺を?」
「ああ。以前試しにリンドヴルムの血に肉を食ってみたんだけど、そうするとなんだか身体が熱くなって……でもこれだけじゃ足りないようなそんな気持ちになったんだ。これって、スキルが発現する時に似ててさ……多分人を覚醒させる……俺を他の奴らよりも1つ上のステージに引き上げてくれる、そんな気がしたんだ。確証はないけど……飼えないならそっちで試させてくれないかな?」
「嫌だと……言ったら?」
「……。ごめんね。意地悪を言っちゃったみたいだ。そんな選択をする権限、与えようなんて気は微塵もないのに」
神宮は声のトーンを抑えると俺の身体を掴む。
なんとかそれから逃げようと俺は翼をバタつかせてみるが、できたのは身体をぐるんと回す、ってことだけ。
ま、そのお陰で神宮が竜人の状態で口をがぱっと開けたのがよく分かったんだけど……だからなにって感じだ。
最後の一撃……まだそれはあるけど、この身体にある残りかすの魔力だけじゃ倒しきれるかわからん。
せめて地面に触れていれば、回路に触れていれば……勿体ねえけど全部使ってあの口ん中にぶち込んで――
『なら、これで大丈夫なはず』
『うん。多分ちゃんと繋がってる。こっちにも声聞こえたから』
頭の中に声が流れた。
死ぬ直前に女神の声が流れる仕様とはあの神様もいい趣味してるじゃねえか。
……いや、それにしちゃあ随分と聞き覚えのある声だ。
それにひんやりと冷たい、まるで氷みたいに……ん?氷?まさか……。
「――いただきます」
声の正体に気付いたかと思えば、俺の目の前で神宮は礼儀正しく食事の挨拶を済ませて、さらに大きく口を開いた。
顔がすっぽりと収まって、熱い息がかかる。
慌てて回路との繋がりを確認して、そこから1階層内の魔力全部を吸い上げようとするが、これじゃ間に合わなそ――
『大丈夫』
『絶対に間に合わせてやる』
今度は聞いたことのない声が流れた。
そしてそれと同時に俺の身体が一気に電気で満ちていく。
これがダンジョンの急速充電。
その速さにはきっと神宮だって……。
「!?」
「やっぱり。そう、その顔が見たかったんだよ。『雷竜豪砲……フルチャで全解放』」
ようやく普通に驚いた、余裕なんてどこへやらの恥ずかしい神宮の顔を拝んでやることに成功。
嬉しさかと興奮からか、あれだけ動かなかったはずの口が神宮に負けないくらい開きやがる。
そう、俺は竜で今のお前は竜人。
そもそもこっちのお家芸に関わるもんで本物が偽物に負けるなんてあり得ないんだよな!!
――ゴウ!!!!!!
悪くなった耳でもはっきりと、でっかく聞こえてくれる。
吐き出された魔力由来の電気はちょっとばかし口の端に触れて痺れるが、勢いは止まらねえし、呼吸をするみたいに自然で気持ちがいい。
ああ、今ならこうやって口から電気や火、氷なんかの魔力込めたそれらを吐く姿を見て、『竜の息吹』だとかなんとか勝手に名前をつけて騒いだ人間の姿がはっきりと目に浮かぶ。
……これが神の使いによる神話の一撃。
俺も『また』語り継がれる1匹になりてえもんだ。




