350話【山吹視点】炸裂弾
「それで左に回してやるとさ、また違った感覚があるんじゃないかな?」
「くっ!な、んだ……コレハ」
「あはははははははは!やっぱり! 角をいじってやるだけで筋肉が弛緩するっぽいんだよね!雷竜でも口が緩くなって……尿道括約筋とか緩んでくれると面白いんだけどなあ。リンドヴルムもそこだけは我慢できてて……あ、そうだ、もっと強引に色々動かしてやれば……」
俺の嘘臭さ満載の片言にまんまと騙されてくれたようで、神宮はここでようやく空いていた手を血まみれの手を支えようと添えた。
最早こいつから戦闘意欲は感じない。
あるのは支配欲と暴力欲求だけ。
多分だが拷問をしている時のような優越感で一杯なんだろう。
となればここが、賭け時。
唯一動く『こいつ』をできるだけ近くに寄らせて……。
滾れ……。熱く熱く張れ。
――ぼこ。ぼこぼこぼこ。
「あはははは――」
「……飛べ」
身体の中心から下半身に向かって魔力が大量に流れる。
そしてそれを受け止める尻尾は膨らみ、炸裂弾のような、売れた果実のような姿となる。
そしてそれがあるのは……。
「いつの間に――」
神宮の振り返った先。背後。
俺たち竜の尻尾ってのは伸び縮みにある程度融通がきく。
これは地上にいるトカゲって生き物が持つ、尻尾の再生力に近い特性らしい。
とまあ、とにかく神宮が俺を弄んでくれたお陰でこいつはばれず、地面を伝ってくれた。
はは……。芝居すんのも、抵抗しないのも苦痛だったが……。
一先ず両手の力みを緩める隙すら与えず、ひたすらに散れや。
――キュイン……。
俺の目の前に1つの柱が立った。
それは白く高くでけえ。
そんでまた炸裂前の甲高い音がでかすぎたみたいで完全に鼓膜がイカれちまった
柱が広がって、まっ平らになったダンジョンの1階層をを今度は深く抉ってるってのに微かにしか音がしなくなった。
勿体ねえな。折角神宮の断末魔を聞ける機会だったってのに……。
「ふ……。ど、ぅだ? 驚い、タだろ?」
身体を襲う浮遊感。
本当に話しにくくなった口。
意識はある生きてはいる。いるが……。
「あり得ないほど軽いな。大分すかすかじゃねえか」
爆風によって揺れる腕が腹の辺りを行き来する。
だけど下半身……脚の付け根辺りは完全に消えちまってるし、地面を左の脇腹と片腕も吹っ飛んだか。
どこを揺れてもそこらには当たってくれねえや。
我ながらとんでもない威力だった。
こりゃ元に戻すのに相当時間を費やすことになりそう……。
最悪全部構成し直す必要があるかもしれん。
って、俺はいいけど苺たちは大丈夫だったかな?
「当たって、なきゃい……いいけど――」
「それは俺の心配をしてくれている……なんてことは当然ないよね?全くやってくれるよ。俺の欲求を煽って不意をつくなんてさ。うん、これは飼う価値がまた上がったね。でも……そうだな。少し予定を変えようか」
「はは……。俺も……お前の強さ、価値……というか……倒しがいのあるやつ……として、もっと評価を、上げるべきかも……しれねえ」
身体の大半を失いながらも、なんとか捩り辺りを見回していると、俺の目には嬉しそうに俺の背後を、ボロボロの翼で飛ぶ神宮の姿があった。




