345話【山吹視点】思っただけ
――どす……。
「うぐっ……」
「お、案外簡単に貫かれてくれたじゃん。でも、俺はお前相手に手は抜かねえ」
肉を貫く生々しい音と、血の流れ、臓器の鼓動……刺さった尻尾から伝わる感触や耳を刺激するそれは間違いなく本物。
神宮の眉間に皺が寄っている様子からも、俺が有利だってことは変わらない。
だが、相手は神宮。
そもそも、こんだけのダメージを負いながら崩れ落ちやしないってのがおかしいんだから、油断なんてしてやらない。
「――滅魔黒雷、出力最大」
身体に溜まってる電気を尻尾に伝わせて、今度は神宮の身体の中にまで伝わせていく。
こいつは俺の魔力で性質を変化させた特殊な電気で、まず、電気ってものの常識を携えちゃいない。
具体的に言うと、こいつは人の身体を痺れさせられない。
ショックを与えることもできなきゃ、馴染まないから次第に漏れて出ていってしまう。
見た目に反してとーっても弱々しい電気。
だけど、こういうもんは1つの効果を消したり減らしたりすることで他の効果を伸ばしてるってパターンがよくある。
んで、当然この電気もただ弱いってだけじゃない。
名前の通りこいつは魔力を滅する。
普通はあり得ないが、こいつは体内にある魔力に触れることで引火させることができるってのと……それを探知する能力を持っているから。
魔力溜まりやその回路ってのは分かれていたり、時にはばらされて配置され、干渉が難しくなっている。
並木遥のスキルを使えばそれを特定するのは簡単なんだろうけど、これがそんなあり得ねえ効果のスキルを持ってない奴らからすると難しいのなんのって……。
でもそれを……あら簡単!この黒雷なら四苦八苦すること無く、探知して自動引火してくれるちゃうんだよな!
ちなみに黒色は俺の趣味!
尻尾から神宮に流れてく様子もなかなかに迫力があってかっこいいじゃんか!
これには見てるダンジョン街の人たちもヒートアップ間違いなし!
本当に燃え上がって俺の勝ち……。
「って、なんかやけに時間長いな」
「……。……。……」
暇な時オロチ……もといハチにソーシャルゲームにあるガチャを回したんだけどさ、あれ派手な予告演出の割に全然いいのこなくて萎えることがやけに多いんだよ。
あの時の虚無感は最悪で忘れらんなくて……そんで今、全く同じもんが俺の中でちらついてやがる。
嫌な汗が気持ち悪い。
こりゃ一回しきり直しだな。
――すっ。
「……流石は竜、危機察知能力が高いね」
「黒雷が、電気が漏れてはいるか……だが、全部じゃねえのな。それに、身体ん中で火がつくどころか、随分とクールじゃねえかよ。……もしかして喰ったか?」
尻尾を引き抜くとそこにはぽっかりと穴ができた、だが出血は無い。
代わりに俺の自慢の電気がちょちょっと漏れてるだけ。
こうなると推測できるのは、俺の電気を喰って、取り込んで、その特徴を取り入れ――
「違うね。俺はそんなモンスターみたいな人間じゃないさ」
「……じゃあなんで血が出てないんだ?」
「それは……俺が、その方が都合がいいと思ったから。ただそれだけ、本当に思っただけさ」




