342話【山吹視点】ビビらせたい
「――あれがぶっきー? なんか……ちょいださ」
「山吹は元々ダサイ……だから苺ちゃん的にはランクアップってこと。褒められてるんだから嬉しそうにするといい」
「いやいやいやいや!!全然ダサくないから!!この見た目とかもう新しく、自分でデザインできるってことだったから睡眠時間削ってさぁ……。いんやぁ、こうやって見ると想像以上の見栄えで涙ちょちょ切れるっての!」
「……」
「……」
……黙りって、やっぱこのセンスを分かるのは男、いいや漢だけなんかな?
折角神宮に一泡ふかせてやろうって、50階層を他のモンスターに預けて、絶対ばれないように竜の姿、本来の力まで封印……というかほとんど消してさ、ここまでやってきたってってのに、この感動を分かち合えないのはちょっと寂しすぎるじゃんさぁ。
ま、画面越しのお茶の間は俺の登場で湧いて湧いてしょうがないだろうけど。
っとはしゃいでる場合じゃない。
一応外してはいたけど苺の両親は……。
「まさか、そんな姿のために50階層をね。ポチに報告しないと。それで……お仕置きは何がいい?」
「……無しだと、嬉しいのですけれどぉ。はぃぃ」
ベアトリーチェの鋭い視線にボルテージがガンガン下がる。
いや、あれは俺も悪いと思った……思ったけどよ、まさかそんな壮大なことになるなんて誰も思わないだろ!
ダンジョン街を、なんなら地上にいる人間まで皆殺しにするまで暴れようとしてたなんざさあ。
でもまぁあのなんだ……。
「……すみませんした」
「私はそれで終わりでもいい。でもポチには連絡するから。今はポチが50階層主。立場が上だと、多分なにか不利もあるよね?」
「それは……そのぉ……」
「しかも1階層限定の階層主だなんて……せこいにもほどがあるもんね。というか、たったそれだけでも竜としての力を取り戻せるってことに驚いちゃった」
「ほらそれは俺ってば燃費がいいから!……じゃなくて、あの本当は皆さんのおかげです。はい。回路を使って頂き滑らかにし、魔力の補充も皆様にこっそり行って頂いていたからです。で1階層だったのは因縁の場所で戦えたら熱いってのと……探索者の皆さんが一番踏み入れた場所で魔力がそこら中に散りまくってたからです。……はい」
くそ、ベアトリーチェの目がなんか恐くて、言いたくねえこともぼろぼろ口の端から溢れやがる。
この俺が、俺様が……駄目だ! 新生雷竜! ぶっきーって名前もらってるんだからもっと神々しく威厳がねえと!
「だ、だがよ、そのおかげでスキルイーターを一掃できたのはすげえだろ!あっはっはっはっ――」
「――こっちはネコババイーター。すげえだろ、あっはっはっはっ」
更地の上に数えられるくらいのスキルイーターしか見当たらない景色の中……苺の皮肉が響き渡った。
なんかもう辣すぎない?
俺仲間だよな?
「……。て、冗談は終わり。また来る前にとっとと捕まえる。ぶっきーはまだ神宮と戦えるから、よろしく。よろよろ」
「よろよろ?……。お、おう。ま、任せろ」
「違う違う。あれは愛情表現。苺ちゃんが折角合わせてくれてるんだから気遣ってあげなきゃ。はぁ、なんのためのヤンキードラゴンなのかな」
「な、なんだよヤンキードラゴンって……。……。……。ま、嫌われたって訳じゃねえみたいだし、背中を預けてくれるってんなら……ダチのためにテンション上げてくしかねえよなあ!どんと任せろ!……。せろせろっ!」
俺が胸を叩きながらそういってやると苺はちらっと振り向いて、少しだけ笑った。
そこに湿気た顔はない。
心配もない。
「だから、俺は俺で全力で飛ばすぜ。覚悟しろよ、神宮!!」
「それを聞いて安心したよ。さっきのが全力だったらやっぱりがっかり……ってなってたからさ」
「はっ! 優等生の癖に随分言ってくれるじゃねえか。だけどよ、肝心なのはこの拳だぜ!」
ベアトリーチェと苺を見送ると、俺は速攻飛び上がって涼しい顔して待つ神宮を睨んだ。
そんで振り上げた拳と共に反撃なんか考慮せず、馬鹿みたいに特攻してやる。
だってあの顔をビビらすなら……やっぱステゴロしかねえだろ?




